シーン2:異変の兆候
フィールドの一角で、それは起きた。
サブキャラクターは、何一つ逸脱していなかった。
配置は指示通り、射線は規定内、発砲角度も安全域。
魔力制御装備は安定し、観測ログにも揺れはない。
それでも――
弾道が、わずかに逸れた。
ほんの数度の偏差。風とも、地形とも、装備誤差とも言える程度のもの。
だが、そのわずかなズレが、防護の継ぎ目を正確に抜いた。
鈍い衝撃音。
次の瞬間、サブキャラクターの身体が崩れ落ちる。
即死ではない。
だが、誰の目にも分かる重傷だった。
動かない脚。乱れる呼吸。回復魔法を前提にしても、完全には戻らないと分かる損傷。
教官の声が即座に響く。
「全体停止!」
訓練は止まり、医療班が走る。対応は迅速で、的確で、非の打ちどころがない。
言葉は、すぐに整えられる。
「想定外の事象」
「個別事故」
「現在調査中」
誰も責任を問われない。
誰も規定を破っていない。
誰も、間違っていない。
ディアナは後衛の位置から、その光景を見ていた。
条件をすべて守った者が、条件の内側で壊れていく瞬間を。
胸の奥に、これまで感じたことのない揺れが生じる。
怒りでも、恐怖でもない。
ただ、静かで、冷たい動揺。
――ああ。
理解してしまった。
正しくても、人は死ぬ。
条件を守っても、救われない。
世界は、規則を裏切っていない。ただ、配慮していないだけだ。
ディアナは初めて、自分の「正しさ」が無力であることを自覚した。
その理解だけが、戦場に残っていた。




