シーン8:章末処理 ――不可逆の確定――
事故は、終わった。
少なくとも、学園の中では。
会議室では報告書が作成される。
時系列。
装備番号。
魔導ログの抜粋。
原因欄には、慎重な言葉が並ぶ。
「想定外の挙動」
「個別事案」
「再現性なし」
制度上の結論は明確だった。
学園に瑕疵はない。
管理は適正。
規定は遵守されている。
誰も嘘は書いていない。
誰も事実を隠してもいない。
ただ、
制度にとって不都合な意味だけが、
最初から記述対象に含まれていない。
事故は「起きた」。
それ以上でも、それ以下でもない。
学園は通常運用に戻る。
大会は形式を変えて継続される。
生徒たちは、静かに配置を変えられる。
重傷を負った生徒の名前は、
公的な場ではほとんど呼ばれない。
「被害者」ではなく、
「該当者」として処理されるからだ。
――――
学園の外。
暗殺側の管理室では、
簡潔な確認が行われていた。
成功ではない。
狙った対象は生きている。
失敗でもない。
計画が露見したわけではない。
だが、
重要な一点が、無言のまま共有される。
実弾は、機能する。
制度の中を通過し、
人を傷つけることができる。
条件は、揃っている。
再現性は、まだ低い。
だが、ゼロではない。
「予定通りでいい」
誰かがそう言い、
誰も異を唱えない。
処理は、続行される。
――――
ディアナは、一人で立っている。
騒ぎの後。
片付けられたフィールド。
何事もなかったような空。
自分は正しかった。
判断は論理的で、制度的で、
最善だった。
介入しなかったのは、
間違いではない。
だが、
その正しさは、
誰も守らなかった。
止められなかった。
変えられなかった。
救えなかった。
理解している。
ここで自分が何かをしても、
結果は変わらなかった可能性が高い。
それでも、
「何もできなかった」という事実だけが、
確かに残る。
誰も狙われなかった。
だから、誰かが傷ついた。
世界は正しく進み、
正しい者は誰も手を汚さず、
引き金だけが、
現実に触れた。
そしてその現実は、
もう、巻き戻らない。




