第八章 「大会開始」 ―― 学園サバゲー大会本番 ―― シーン1:開会前ブリーフィング (安全が宣言される瞬間)
屋外模擬戦フィールドは、朝の光に均一に照らされていた。
人工的に整えられた地形、射線を意識して配置された遮蔽物、上空を周回する記録用魔導装置。そのすべてが、すでに「使用されること」を前提として沈黙している。
観客席には貴族の関係者が並び、装飾過多な席と簡素な席とが、明確に分けられていた。誰もがこの行事を「競技」として見に来ている。そこに疑いはない。
生徒たちは整列し、装備を身につけたまま、指示を待っていた。
緊張はある。だが、それは個々の勝敗や評価に向けられたもので、危険そのものに向けられたものではなかった。
前に立った主任教官は、いつもと変わらぬ声量で口を開いた。
「本日は、定例行事である学園模擬戦大会を実施する」
魔導装置が反応し、フィールド全体のログ表示が空中に浮かび上がる。装備規格、出力制限、判定方式。
一つ一つが淡々と読み上げられ、確認されていく。
「使用装備は、事前点検を通過した規格品のみです」
「出力は制限され、統制された状況下で運用されます」
「評価基準は、従来通りとします」
そこに、「事故」という言葉はない。
「防止」という語もない。
代わりに繰り返されるのは、
「想定訓練」
「統制」
「評価」
すべてが、説明可能であることを前提とした語彙だった。
主任教官は生徒を見ていない。
彼の視線は、規定と記録と、過去の前例に向けられている。
やがて、一歩前に出るよう促され、王子ルッツが前列に立った。
形式的な位置。象徴としての立ち位置。
彼は一瞬、観客席を見渡し、それから生徒たちに視線を向ける。
だが、何も語らない。
改革についての言葉はない。
安全への強調もない。
彼はここで、王子ではあっても、制度の外には立たない。
学園の一構成要素として、静かにそこにいるだけだ。
「それでは、模擬戦を開始する」
その一言で、空気が切り替わる。
誰かが安堵し、
誰かが気合を入れ、
誰かが何も感じない。
だが、この瞬間、確かに成立していた。
――大会は、安全であると宣言された。
それは願いではなく、判断でもなく、
ただの前提として。
誰も異議を唱えないまま、
世界は、次の段階へと進み始めていた。




