シーン6:章末・静かな確定 ――誰も手を汚していない――
学園は、何事もなかったように動き続けていた。
装備点検区画では、次の班が呼び出される。
教官は端末を操作し、定例業務の項目を一つずつ消していく。
誰も声を荒げない。
誰も立ち止まらない。
会議室では、議題が切り替わる。
「では次に、次週訓練の配置調整を」
魔導ログは静かに畳まれ、別の資料が円卓に投影される。
先ほどまで確認されていた事象は、すでに過去形だ。
判断は終わり、処理も終わった。
残っているのは、通常業務だけだった。
廊下では、生徒たちが行き交う。
次の訓練の話。
成績の噂。
取るに足らない雑談。
誰も、自分がどの工程に含まれているかを知らない。
知らないままでいることが、制度上の安全だった。
ディアナは、その流れの中にいた。
特別な行動は取っていない。
警告もしていない。
報告もしていない。
ただ、与えられた立ち位置に留まり、
与えられた評価を受け入れ、
与えられた沈黙を守った。
それ以上でも、それ以下でもない。
正しい判断が、いくつも積み重なった。
誰も悪くなく、
誰も規定を破らず、
誰も間違えていない。
だからこそ、
止める理由は、どこにも存在しなかった。
その日の終わり、
何かが起きたわけではない。
だが、
何かが始まった。
誰も手を汚していない。
誰も命令していない。
誰も引き金を引いていない。
それでも――
処理は、静かに動き出していた。




