シーン2:規定という防御 ――正しい判断の積み重ね――
主任教官は、円卓に投影されたログから視線を外し、手元の端末を一度だけ操作した。
そこに表示されるのは、数値ではなく条文だ。
学園規定。
訓練運用規程。
装備管理指針。
生徒申告処理要領。
一つずつ、頭の中で照合していく。
逸脱はない。
教官の裁量は、すべて規定の範囲内だ。
生徒からの体調申告は正式に受理され、処理されている。
装備点検ログは保存済みで、改竄の余地もない。
どれも、正しい。
正しすぎるほどに。
主任教官は理解している。
規定を守ったという事実が意味するのは、善意や配慮ではない。
それは、判断の正しさを示す証明ではなく、
防御が完成したという合図だ。
何かが起きたとしても、
ここから先に責任が遡ることはない。
判断は規定に委ねられ、個人の意思はすでに切り離されている。
そこには、誰かを守る意図も、切り捨てる意図もない。
ただ、制度が制度として機能しているだけだ。
明文化されていない前提がある。
問題を「問題」と認めなければ、
それは制度上、存在しない。
存在しないものは、処理する必要がない。
処理しないものについて、責任は発生しない。
主任教官は、わずかに息を整えた。
それは安堵でも、迷いでもない。
単なる確認だ。
規定は倫理ではない。
正しさの尺度でもない。
規定は盾だ。
そして今、その盾は、完全に構えられている。




