シーン2:模擬戦での敗北(勝たないという選択)
小規模チームによる模擬戦は、第三演習区画の簡易フィールドで行われた。
地形は単純で、遮蔽物も多くない。
勝敗は評価対象にはなるが、進級や処遇に直結するものではない。
失敗しても「理由」が付けば、それで終わる類の訓練だった。
ディアナの配置は後衛だった。
前線に立つ者でも、指揮を執る者でもない。
支援と観測を任される、無難な位置。
開始合図と同時に、チームは散開する。
味方の動きは悪くない。
敵の初動も、想定の範囲内だ。
ディアナは銃を構え、照準を合わせる。
視界の端で、敵の癖が見える。
数歩後に露出する位置。
次の移動先。
そこに撃ち込めば、戦局は一気に傾く。
――だが、引き金は引かれない。
代わりに、牽制射だけが放たれる。
当たらないわけではない。
しかし、崩れもしない。
味方が小さなミスをする。
連携が一拍遅れる。
本来なら、ここで介入すれば修正できる。
ディアナは、何も言わない。
指示も出さず、合図もしない。
後衛としての最低限の仕事だけを続ける。
時間が経過するにつれ、戦況はじわじわと不利になる。
致命的な崩壊はない。
だが、逆転の芽も育たない。
制限時間が終了し、結果が確定する。
敗北。
ポイント差は僅かだった。
フィールドに緊張は残らない。
誰かが小さく舌打ちし、誰かが肩をすくめる。
勝敗はすぐに、個々のミスへと分解されていく。
教官の講評は簡潔だった。
「連携不足だな」
「ディアナは体調を考えれば仕方ない」
それ以上の追及はない。
敗因は特定されず、責任も集中しない。
よくある訓練結果として処理される。
ディアナは銃を下ろし、静かに息を整える。
勝てた局面が、確かにあった。
自分が一歩前に出れば、終わっていた場面も。
だが、勝利は数字以上のものを連れてくる。
称賛。
期待。
説明を求める視線。
――物語だ。
ディアナはそれを知っている。
勝つことは、前に出ること。
前に出る者は、必ず名前を持つ。
だから彼女は勝たない。
敗北という曖昧な結果に身を沈め、
評価の焦点から、静かに外れていく。
注目は消え、記録は薄まり、
ディアナはまた一段、制度の影に近づいた。




