Ⅴ.状況確認(失敗)
洋子は、勢いよく起き上がろうとした。
――その瞬間、違和感が重なる。
体が、軽い。
筋肉が動く感覚はあるのに、
いつもの重さがない。
関節が軋まず、
身体が素直に言うことを聞く。
反射的に、自分の腕を見る。
白い。
血の気が引くほど、均一な白さ。
日焼けの跡も、生活の癖も残っていない。
指を動かす。
爪が目に入る。
形が、違う。
短く整えられた、
手入れの行き届いた爪。
割れも、欠けも、ささくれもない。
息が、早くなる。
胸が上下するのを自覚した瞬間、
さらに気づく。
髪が、長い。
肩に触れる。
指に絡む感触。
自分の記憶より、明らかに量が多い。
心拍数が、一気に跳ね上がる。
これは夢だ。
そう思おうとするのに、
感触が、すべて具体的すぎた。
洋子はベッドの上で、
視線を忙しなく動かす。
鏡。
姿を確認できるものを探す。
部屋は広く、
調度品は整いすぎている。
すぐ近くに、姿見は見当たらない。
代わりに、
視界の端で、何かが動いた。
足音。
静かで、規則正しい。
その音が近づくより早く、
ノックの音が、扉越しに響いた。
そして――
状況確認は、
最も悪い形で中断される。




