シーン7:制度側のフラグ立ち(明示されないマーク)
解析室の照明が落とされる。
生徒たちが退出したあと、装備点検区画は管理者の時間に移行する。
音のない空間で、解析術式だけが淡く回り続けていた。
教官の一人が、操作端末に指を走らせる。
点検結果の確定。
個別ログの整理。
形式的な作業だ。
その中に、ひとつだけ、通常より項目の多い記録がある。
――リリア・コンツェル。
表示は簡潔だった。
・当事者申告あり
・内容:感覚的懸念
・数値異常なし
・装備動作:正常
警告色はない。
強調表示もされていない。
だが、「申告あり」という一文だけが、確実に残る。
教官はそれを削除しない。
削除する理由がないからだ。
事実として、申告はあった。
「問題なし」と判断した以上、
それ以上の対応は不要。
それでも、記録は閉じない。
別の教官が、淡々と確認する。
「危険人物ではありません」
誰も反論しない。
能力も、思想も、行動も、問題視する要素はない。
「ただ――」
言葉が、少しだけ間を置く。
「処理を複雑にする可能性はある」
その評価も、誰も否定しなかった。
感覚的な懸念。
数値に現れない違和感。
公開の場での申告。
それらはすべて、
事故を起こす兆候ではない。
だが、事故が起きた場合、
「説明」を難しくする要素になる。
教官は端末を閉じる。
これ以上、話すことはない。
特別な対応も、監視強化も行われない。
ただ一つ、
記録が残った。
それだけで十分だった。
制度は、音を立てない。
印もつけない。
名指しもしない。
それでも――
世界は、彼女を覚えた。




