シーン3:ディアナの無言の制止
リリアの言葉が、空間に落ちた瞬間。
ディアナは理解した。
数値ではない。
装備の不具合でもない。
単なる誤差や、よくある揺れでもない。
――魔力の質だ。
リリアの魔力は、感情に引きずられる。
緊張、安心、信頼。
そのたびに出力の「向き」が変わる。
装備は量と制御しか見ていない。
だから追いつける。
だから均せる。
だが、それは常に後追いだ。
感情が跳ねた瞬間のズレまでは、消せない。
ディアナには、それが分かる。
そして、それが
制度では処理できない種類の異常だということも。
教官に説明すれば、ログを精査される。
数値で否定される。
否定された記録だけが残る。
あるいは――
「感覚的な不安を訴える生徒」として、別の欄に書き込まれる。
どちらに転んでも、
一度拾われた存在は、元の場所には戻れない。
ディアナは、視線を上げる。
点検台の上のリリアと、ほんの一瞬だけ目が合う。
そして、首をわずかに振った。
言葉はない。
表情も動かさない。
説明しない。
理由も伝えない。
ただ、今は言うな、と。
リリアの視界の端で、ディアナはただの「無関係な生徒」に見えるだろう。
だが、その動きには、明確な意図があった。
(ここで言えば、拾われる)
(拾われたら、戻れない)
ディアナは黙る。
声を出さない。
教官に向かっても、リリアに向かっても、何も言わない。
それが、この場でできる唯一の介入だった。
沈黙は、逃避ではない。
判断だ。
ディアナは、リリアを守るために――
制度に届かない場所に、彼女を留めようとしていた。




