シーン2:リリアの点検(異常の“自覚”)
リリアが点検台に立つ。
背は高くない。
動作も控えめで、周囲に溶け込むように歩いてきた少女だ。
教官の指示に従い、魔導銃を構え、防護服の固定を確認する。
「魔力を流してください」
その声に、リリアは小さく頷く。
魔力が流れ、解析術式が起動する。
ガラスの向こうに、光の数値列が浮かび上がった。
量、出力、制御係数。
どれも基準値内。
赤い警告表示はひとつもない。
教官は特に反応を示さない。
周囲の生徒も、ちらりと見るだけだ。
だが、リリアの中では、別の反応が起きていた。
――引っ張られている。
はっきりした言葉にはならない。
けれど、魔力を流すたびに、装備の内側から微妙な抵抗を感じる。
自分の魔力が、装備に合わせて押し曲げられているような感触。
ログは、わずかに揺れている。
数値としては誤差。
装備側の補正が、即座にそれを均している。
だから、問題にはならない。
けれど――。
もう一度、魔力を流す。
今度は意識的に、呼吸を整えてから。
それでも、ズレる。
ほんの一瞬。
装備が遅れて追いかけ、また均す。
(……変だ)
理由は分からない。
理屈も説明できない。
数値は正常。
教官も何も言わない。
このまま黙っていれば、点検は終わる。
「問題なし」で済む。
リリアは一瞬、口を閉じかける。
自分の感覚を、信用していいのか分からない。
ここで何か言えば、空気が止まることも分かっている。
それでも。
胸の奥に残る違和感が、無視できなかった。
「……これ」
声が、思ったより静かに出た。
「これ、大丈夫なんでしょうか」
解析室の空気が、ほんのわずかに揺れる。
まだ、誰も否定も肯定もしていない。
安全宣言も、問題なしの判断も出ていない。
ただ一つ。
点検台の上の当事者が、
制度より先に疑問を口にした。
それが、この場で初めての出来事だった。




