シーン6:ディアナの位置づけ
会議は続いている。
だが、ディアナ・クロイツの名は、ほとんど出てこない。
正確には、一度だけだ。
補足資料の端。
確認事項の最下段。
「……ディアナ・クロイツについては?」
問いは短く、関心も薄い。
担当教官が即答する。
「最近は不調と判断されています」
「影響度は低下傾向です」
投影される簡易データ。
数値は、凡庸だ。
突出しない。
乱れもしない。
問題を起こさない。
主任教官が一瞥し、それ以上見ない。
「危険度は?」
「下がっています」
「なら、いい」
それで終わった。
誰も、深掘りしない。
誰も、原因を問わない。
誰も、将来を憂えない。
議題は、次へ進む。
ディアナは、
英雄候補でもなければ、
問題児でもない。
「ノイズにならない存在」として、
分類箱の外に置かれる。
監視ランクは一段階下がり、
定例チェックは簡略化される。
管理対象から、
管理“重点”対象ではなくなる。
それは、評価の低下ではない。
むしろ、最良の位置だ。
――問題として扱われないこと。
制度において、それは
「正しい振る舞い」の証明だった。
誰かが、資料を閉じながら言う。
「安定していますね」
その言葉に、含みはない。
褒めてもいない。
疑ってもいない。
ただ、処理が不要だという意味だ。
ディアナ・クロイツは、
制度の視界から、静かに外れていく。
彼女が選んだ
「勝たない」「目立たない」「正しくならない」という戦術は、
個人の意志ではなく、
この学園という装置にとって、
最も扱いやすい解答だった。
会議室の余白に、
彼女は完全に収まっている。
――そのことを、
誰も危険だとは思わなかった。




