シーン5:教員から見た「問題児リリア」
非公式資料は、公式議事録とは別の端末で開かれた。
分類名は簡潔だ。
――要注意生徒評価。
そこに、リリア・エインズの名が置かれている。
誰かが、事務的に項目を読み上げる。
「数値面から」
投影されるのは、魔力ログの推移。
平均値は基準内。
逸脱も致命的ではない。
だが、線は揺れている。
「安定しません」
「常に補正が入っている状態です」
補正依存度のグラフが示される。
装備側が、絶えず微調整を行っている。
「本人の制御能力が低いわけではない」
「ただし、自力で一定値を保てていない」
ここまでは、よくある話だ。
この学園には、似た生徒はいくらでもいる。
次に、行動面。
「周囲への影響が顕著です」
教官の介入記録。
判断保留。
警告延期。
処置見送り。
「生徒が彼女を信頼する」
「教官も、それを前提に判断する」
信頼が、判断基準に混ざる。
「この子がいるから大丈夫だろう」
「あの場は、収まるはずだ」
そうした思考が、処理を遅らせる。
主任教官が言う。
「我々は“処理”を仕事にしています」
問題が問題であるうちに切り分け、
責任が拡散する前に終わらせる。
だが、リリアがいると違う。
「事故が、事故で終わらない」
一同が沈黙する。
「怪我をした理由」
「止められなかった判断」
「誰が悪かったのか」
物語が生まれる。
善意。
後悔。
怒り。
同情。
そして、責任追及。
「数字では説明できなくなる」
「政治の言葉に変換される」
それが、最も避けるべき事態だった。
誰かが、ぽつりと口にする。
「能力の問題ではありませんね」
主任教官が頷く。
「ええ。問題児とされる理由は、そこではない」
彼は、非公式評価の結論欄に記す。
――物語性を生む存在。
英雄にも、被害者にもなりうる。
周囲を巻き込み、意味を付与してしまう。
制度にとって、最も扱いにくい性質。
「だからこそ、危険だ」
会議室の空気が、完全に凍る。
リリア・エインズは、
規則を破らない。
命令に従う。
善意で振る舞う。
それでも、問題児と呼ばれる。
学園が恐れているのは、
彼女の力ではない。
彼女が、世界に
「物語」を要求してしまうことだった。




