シーン3:王子ルッツの改革思想(議題としての存在)
円卓の空気が、わずかに変わる。
新たに投影された資料の表題に、全員が一瞬だけ目を留めた。
《学園運用改善提案
提出者:ルッツ・ライヤード》
誰かが咳払いをする。
名前そのものが、議題になる存在だった。
「王子殿下からの提案です」
主任教官は、感情を排した声で説明を始める。
「主な内容は三点。
実弾使用の制限。
生徒の安全を最優先とする運用方針。
そして、教官裁量の明文化」
投影資料には、丁寧な文言が並んでいる。
理念は一貫している。否定しづらい。
「現場の負担軽減にも繋がると」
表向きの反応は、穏やかだった。
「理解できます」
「理想としては、正しい」
「安全意識の向上は必要でしょう」
言葉は、すべて肯定形だ。
だが、誰も前向きな決定を口にしない。
沈黙の裏で、別の評価が共有されている。
――現場を知らない。
――事故処理が難しくなる。
――前例が崩れる。
実弾を制限すれば、再現性が落ちる。
安全を優先すれば、判断が遅れる。
裁量を明文化すれば、責任が可視化される。
それは、制度にとって致命的だ。
主任教官が、まとめるように言う。
「検討は継続します。
ただし、即時導入は困難です」
誰も異議を唱えない。
反対も、賛成も、しない。
排除はできない。
王子だからだ。
同時に、危険でもある。
権力がある。
発言力がある。
そして――正しい。
制度の中で、正しく振る舞おうとする人間は、
必ず前に出る。
前に出る者は、目立つ。
目立つ者は、処理対象になる。
王子は制度を壊そうとしているわけではない。
むしろ、制度を信じている。
だからこそ、その中心に立ってしまう。
円卓の光が、再び落ち着く。
改革案は、議題として保留された。
だが、危険性だけは、
確かに共有された。




