第四章 「学園という制度」 シーン1:教官会議(制度の言語)
上層部会議室は、地下装備庫よりも静かだった。
外界の音は完全に遮断され、円卓の中央に投影された魔導監視ログだけが、淡く光っている。
そこに、生徒の姿はない。
名前すら、ほとんど出てこない。
「では、第三演習区画の定例確認から」
主任教官が淡々と口を開く。
感情の起伏を排した声は、報告というより読み上げに近い。
投影されるのは、数値と波形。
模擬戦の経過、命中率、移動量、魔力出力の変動。
「全体として、再現性は確保されています」
別の教官が続ける。
「特定の突出事例はありません。不安定要素も、想定範囲内」
その言葉に、誰も異議を唱えない。
「事故」や「危険」という単語は、一度も使われなかった。
代わりに並ぶのは、抽象化された表現だ。
再現性。
不安定要素。
政治的影響。
「問題になり得るのは、この辺りですね」
主任教官がログの一部を指し示す。
「感情変動に伴う出力揺れ。
ただし、数値化は可能です。技術的説明もつく」
「外部への波及は?」
即座に、別の声が重なる。
「ありません。
現段階では、学園内で完結します」
それで、十分だった。
判断基準は明確だ。
人間的に不安かどうかではない。
教育的に望ましいかどうかでもない。
技術的に説明できるか。
責任を外に出さずに済むか。
それだけ。
「では、現行方針を維持します」
議論は、それ以上深まらない。
誰かの成長や不安、恐怖について触れる必要はない。
会議室に漂うのは、管理の空気だった。
ここにいる教官たちは、教師ではない。
守護者でもない。
彼らは、制度の一部だ。
人を育てるためではなく、
問題を問題として扱わないために存在する。
事故は、起きてはならないものではない。
起きても、問題にならなければいいものだ。
円卓の光が、静かに落ちる。
学園は今日も、正常に機能している。




