シーン7:章末思考(事故条件の整理)
夜更け。
私室の灯りは落とされ、窓から差し込む月明かりだけが部屋を満たしている。
ディアナは椅子に腰掛けたまま、動かなかった。
装備ケースは閉じられ、もう触れる必要はない。
考えるべきことは、道具ではなく――条件だ。
自分の魔力。
揺れない。乱れない。
安定しすぎている。
制御が不要なほど均一な魔力は、制限装置を無意味にする。
安全装置が働く余地がないということは、
一度でも想定外が起きれば、そのまま致命域に届くということだ。
安定は、安全ではない。
次に、リリアの魔力。
量も制御も平均的。
だが、感情に引きずられる。
信じた瞬間に伸びる。
怯えた瞬間に縮む。
揺れは装備が吸収しているが、それは仮止めにすぎない。
補正が追いつかなくなったとき、
跳ねた出力は、本人すら予測できない方向へ向かう。
そして、装備。
平均を前提に作られた道具。
量と制御しか見ない仕組み。
質の違いには、目を閉じている。
どちらの魔力にも、追いつかない。
ディアナは、静かに結論を組み立てる。
事故は、偶然ではない。
悪意がなくても起きる。
誰かがミスをしなくても起きる。
条件が揃えば、必ず起きる。
安定しすぎた魔力と、
揺れすぎる魔力と、
それを「平均」に押し込めようとする装備。
それらが同じ戦場に置かれた時点で、
事故は、既に準備を終えている。
(起こるべくして、起こる)
だから、止める方法は限られている。
英雄になることではない。
正しさを叫ぶことでもない。
条件から、外れること。
ディアナは立ち上がり、カーテンを閉めた。
月明かりが遮られ、部屋は闇に沈む。
第三章は、ここで終わる。
安全とは幻想であること。
事故とは例外ではないこと。
そして――
生き残るには、その前提を受け入れるしかないこと。




