シーン6:フランソワの介入(裏補給の示唆)
夜。
ディアナの私室は、学園の喧騒から切り離された静けさに包まれていた。
天蓋付きのベッド脇、低い卓の上に装備ケースが開かれている。
中身は、昼に点検を受けたばかりの魔導銃と制御リング、防護服。
ディアナは椅子に腰掛け、黙ってそれを見ていた。
背後で、微かな金属音がする。
フランソワが、白手袋を外し、器用な指先で内部調整を行っていた。
「……完了いたしました」
静かな声だった。
「魔導反応を、わずかに鈍らせております」
ディアナは振り返らない。
「それは……大丈夫なの?」
問いは、警戒というより確認だった。
フランソワは即答する。
「公式の範囲内でございます」
ケースの内側に視線を落としたまま、淡々と。
「出力制限を一段、強化しました。
規格上、許容されている調整です」
ディアナは理解する。
装備は、完全な固定値ではない。
管理が許している“幅”が存在する。
「反応速度も?」
「遅延を、ほんの僅かに」
フランソワは言葉を選ばない。
「優秀すぎる装備は、目立ちますので」
その言い方が、すべてを示していた。
ディアナは小さく息を吐き、頷く。
「……ありがとう」
それだけで十分だった。
フランソワは一礼し、ケースを閉じる。
「お嬢様が“普通”であるように見える程度に留めております」
普通。
その言葉が、ここでは戦術用語だ。
学園の管理外で、だが規則違反ではない。
合法的に、弱く見せる。
合法的に、力を縛る。
それが可能だという事実が、静かに示される。
フランソワは部屋を辞する前、控えめに付け加えた。
「必要があれば、いつでも調整いたします」
ディアナは装備ケースに手を置き、答える。
「……今は、これでいい」
扉が閉まり、再び静寂が戻る。
ディアナは天井を見上げる。
無双をやめる。
目立たない。
その戦術は、意思だけでは成立しない。
支える基盤が必要だ。
この部屋にある装備と、
そして――フランソワの存在が、その裏側を担っている。
ディアナは、確信する。
自分は一人で消えているのではない。
消え続けるための準備は、既に整っている。




