シーン5:武器管理の裏側(完全管理の幻想)
装備点検が一段落した頃、管理区画の奥で、教官と整備士が簡単な確認を行っていた。
生徒のいない場所。声は自然と低くなる。
「今日の点検、問題なしですね」
整備士が端末を閉じながら言う。
教官は頷くが、その表情は事務的だった。
「数値上はな」
壁面モニターには、先ほどの点検ログが一覧で流れている。
整ったグラフ。許容範囲内の数値。
それだけを見れば、完璧な管理だ。
だが、教官は一つ息をついた。
「魔力は、生体由来だ」
独り言のような言葉だった。
「寝不足でも変わる。体調でも変わる。
当然、感情でも変わる」
整備士は肩をすくめる。
「そこまでは、装備じゃ追えませんよ」
「分かっている」
教官はモニターから目を離さずに続ける。
「我々が保証できるのは、点検時点の安全性だけだ。
つまり――昨日の安全だ」
定期点検。
出力制限。
自動停止。
どれも、過去のデータを基準にしている。
「今日の魔力までは、保証できない」
その一言で、現実が露わになる。
整備士は言葉を選ぶようにして口を開いた。
「だからこそ、演習は訓練なんです。
実戦じゃない。事故は起きない前提で――」
教官は首を振った。
「違う」
短く、はっきりと。
「事故が起きない訓練じゃない。
事故が起きにくい訓練だ」
空気が一瞬、張り詰める。
管理とは、排除ではない。
低減でしかない。
ゼロにはできない。
だが、それを認めると、学園の理念が揺らぐ。
教官は端末をロックし、淡々と締めくくった。
「だから、問題が起きたときは“事故”になる。
誰かの責任ではなく、想定外として処理される」
整備士は黙って頷いた。
完全管理という幻想は、今日も維持される。
それが、教育機関としての正常運転だった。
地下区画の照明が、静かに落ちる。
その上で、生徒たちは今日も「安全な」サバゲーを行う。
――事故が起きにくいだけの、戦場で。




