シーン4:リリアの装備(危うさの兆候)
装備点検は流れ作業のように続いていく。
ディアナの次に呼ばれたのは、リリアだった。
彼女は少し緊張した面持ちでブースに立つ。
背筋は伸びているが、指先に力が入っているのが分かる。
整備士が端末を起動し、魔力ログを表示する。
「平均的だな」
最初の評価は、それで終わった。
魔力量は標準域。制御精度も基準値内。突出した数値はない。
だが、ログの波形は完全に平坦ではなかった。
微細な揺れ。
呼吸に合わせるように、あるいは思考に引きずられるように、わずかに上下している。
装備側の補正ランプが、消えない。
常に、何かを調整している。
整備士は気に留めた様子もなく、設定を確認する。
「補正は常時入ってるが……許容範囲だ」
教官が一瞥し、短く結論を出す。
「問題なし。よくある誤差だ」
その言葉で、処理は終わった。
誰も深掘りしない。
リリアはほっとしたように息をつき、軽く頭を下げる。
安心が、そのまま魔力に反映されたのか、波形が一瞬だけ安定した。
その変化を、ディアナは見逃さなかった。
――今の揺れは、技術的なものじゃない。
恐怖で縮む。
信頼で緩む。
期待で膨らむ。
感情に引きずられる魔力。
意志ではなく、心情に同期する性質。
ディアナは理解する。
この魔力は、制御されているのではない。
装備に、抑え込まれているだけだ。
補正がある限り、表面上は安定して見える。
だが、補正が追いつかなくなった瞬間――
(この子は、危ない)
理由は、まだ言葉にならない。
ただ、確信だけが胸に残る。
正しい子だ。
信じる子だ。
だからこそ、揺れる。
装備点検は滞りなく終わり、次の生徒が呼ばれる。
リリアは微笑んでブースを出ていった。
その背中を見送りながら、ディアナは静かに思う。
――事故は、突然起きるものじゃない。
――準備が整ったときに、起きるだけだ。




