シーン5:事後評価(教官の判断)
模擬戦終了後、
第三演習区画に併設された管制室で、
教官たちによる簡易的な確認が行われた。
形式ばった会議ではない。
だが、
ディアナが敗北した以上、
何も確認しないという選択肢はなかった。
魔導端末に、
戦闘データが展開される。
命中率。
移動距離。
反応速度。
判断遅延。
数値は、
整っていた。
極端な低下はない。
致命的なミスもない。
射撃は正確。
移動は合理的。
判断も遅れていない。
ただ――
一つだけ、
決定的に欠けているものがある。
決定打。
勝敗を分ける行動が、
一切記録されていない。
誰かを仕留める。
戦局を動かす。
流れを引き寄せる。
そうした行為が、
最初から最後まで、
存在しなかった。
主任教官、
マルクス・ヘルマンが、
端末から目を上げる。
表情に、
怒りはない。
失望も、
困惑も、
強くは出ていない。
「……不調だな」
短い一言だった。
断定でもなく、
追及でもない。
教官たちは、
それ以上踏み込まない。
叱責はない。
理由の追及もない。
追加訓練の指示も出ない。
処理方針は、
ただ一つ。
経過観察。
その判断が下された瞬間、
場の空気がわずかに緩む。
問題ではない。
異常でもない。
そう、
扱われた。
だが、
そのこと自体が、
最も異常だった。
最強が負けた。
しかも、理由が説明できない。
それでも、
誰も踏み込まない。
ディアナは、
危険ではないと判断されたのではない。
ただ、
今は見る必要がない
そう分類されたに過ぎない。
その静かな処理が、
後になって、
取り返しのつかない意味を持つことを、
この時点で知る者はいなかった。




