シーン3:戦況の推移
戦場は、奇妙な均衡に入った。
互角の撃ち合い。
一進一退。
誰かが前に出て、誰かが下がる。
小さな勝敗が、
少しずつ積み重なっていく。
本来なら、
この段階で戦局は崩れる。
ディアナが一度踏み込めば、
流れは一気に片方へ傾く。
それを、誰もが知っている。
だが、
その介入がない。
最強が動かないことで、
戦場は単純化されなかった。
複雑なまま、
時間だけが進む。
その変化を、
アーデルハイトは感じ取っていた。
彼は、
視界の端にディアナを捉えながらも、
呼びかけない。
頼らない。
それは、
信頼の欠如ではない。
彼女が動かない以上、
動かすべきではないと判断しただけだ。
アーデルハイトは、
自チームの動きを優先する。
無理に前へ出ない。
確実に人数差を作る。
危険な突破は避ける。
安全な勝利条件を、
一つずつ積み上げていく。
一方、
ディアナは見ていた。
敵の陣形の歪み。
一瞬の連携ミス。
射線が重なり、
完全に開く隙。
(ここで勝てる)
判断は、
一瞬で下りる。
だが、
引き金は引かれない。
味方の位置取りが甘い。
連携が遅れる。
それも、
正確に把握している。
だが、
声は出さない。
身振りもしない。
修正すれば、
戦局は変わる。
変われば、
勝つ。
(だが、勝たない)
ディアナは、
ただ遮蔽物の影に留まり続ける。
その沈黙が、
戦場の流れを、
じわじわと変えていく。
誰も決定打を打てない。
誰も主導権を握れない。
説明のつかない停滞。
それは、
最強が“何もしない”ことで生まれた、
異常な平衡だった。




