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シーン2:開戦
開始合図が、乾いた音で鳴り響いた。
同時に、生徒たちが動く。
訓練された反射。
誰に指示されるでもなく、
それぞれが散開し、遮蔽物へと走る。
第三演習区画は、
これまで幾度も使われてきた場所だ。
地形も、射線も、
多くの生徒が頭に入れている。
そして――
全員が無意識に意識している存在があった。
ディアナ。
通常なら、
彼女は最短距離を選ぶ。
敵陣に向かって、
迷いなく踏み込み、
数分で戦局を終わらせる。
それが、この学園における「常識」だった。
だが、今回。
ディアナは、
一歩、後ろに下がった。
前線には出ない。
遮蔽物の影に身を置き、
視界だけを確保する。
銃は構える。
狙いもつける。
だが、引き金は軽く引かない。
撃つ。
しかし、倒さない。
牽制。
制圧。
それ以上の行動に踏み込まない。
戦場の空気が、
わずかに歪む。
誰かが、
胸の奥で小さく首を傾げる。
(あれ?)
(前に出ない?)
声にはならない。
誰も止まらない。
模擬戦は、そのまま進行する。
だが、
確実に何かが違っていた。
ディアナが、
“最強”の動きをしていない。
その事実が、
まだ言語化されないまま、
戦場の底に沈んでいく。
違和感は、
種のように撒かれただけだ。
――この時点では、
まだ誰も、
それが芽吹くことを知らない。




