シーン8:決断
ディアナは、視線を伏せる。
中庭の喧騒が、遠くに感じられた。
胸の奥にあるものを、
一つずつ確認する。
――未練。
英雄になれなかったこと。
最強として称賛される未来。
誰かを守り、物語の中心に立つ可能性。
それらに対して、
心はまったく反応しなかった。
欲しくない。
最初から、必要としていない。
――恐怖。
それは、確かにある。
銃声。
血。
ゲーム画面の向こうで見た、
強制終了の文字。
死ぬと分かっている未来を、
正面から受け入れられるほど、
彼女は狂っていない。
だからこそ、
選択は明確だった。
無双をやめる。
力は隠す。
結果だけでなく、過程も抑える。
判断は、他人に委ねる。
作戦立案もしない。
指示も出さない。
介入はしない。
誰かが失敗しても、
手を伸ばさない。
助けられる場面があっても、
最初から立たない。
それは冷酷さではない。
この世界の仕様を理解した者の、
合理的判断だ。
ディアナは、
自分自身に向けて、
静かに宣言する。
(勝たない)
(正しくならない)
(目立たない)
それが、
彼女の行動原理。
これ以降、
彼女は“最強”ではなくなる。
少なくとも、
他人の目に映る限りでは。
中庭に吹く風が、
彼女の長い髪を揺らした。
誰も気づかない。
誰も止めない。
第一章は、
その静かな決断をもって、
終わる。
――最強であることの危険を、
誰よりも正確に理解した者として。




