シーン4:王子ルッツ登場
中庭の一角が、
ひときわ賑わっていた。
人だかりの中心にいるのは、
王子ルッツ・ライヤード。
制服の上からでも分かる、
背筋の伸びた立ち姿。
声はよく通り、
場の空気を押し上げる力がある。
「無理に前に出る必要はない。
だが、退きすぎるのも違う」
そう言って、
一人の生徒の相談に耳を傾けている。
「君の立ち位置なら、
仲間を信じて一歩踏み出せばいい」
迷いのない言葉。
相手の目を見て、
逃げ道を与えない言い切り。
周囲の生徒たちは、
自然と頷き、
その言葉を受け取っていた。
――中心に立つ人間。
ディアナは、
少し離れた位置からその光景を見ていた。
視界に入った瞬間、
原作知識が、即座に起動する。
(この王子は、大会で死ぬ)
理由まで、
正確に思い出せる。
(ヒロインを庇って、撃たれる)
映像のように、
ゲームのイベントが脳裏を横切る。
だが、
目の前のルッツは、
その結末を感じさせない。
無謀ではない。
戦力評価も、状況判断も、的確だ。
無能でもない。
むしろ、指揮官としては優秀な部類だろう。
――それでも。
正しすぎる。
仲間を信じること。
前に出ること。
責任を引き受けること。
すべてが、
この世界では弾丸を呼ぶ行為だ。
(この人は、前に出る)
ディアナは確信している。
(だから、撃たれる)
誰かが退くべき場面で、
必ず一歩踏み出す。
誰かが犠牲になる局面で、
必ず自分を差し出す。
それは美徳であり、
同時に致命的欠陥だ。
ルッツの言葉に、
生徒たちの表情が明るくなる。
希望が生まれる。
士気が上がる。
その中心に立つ王子を見ながら、
ディアナは静かに思った。
この人は、
英雄として語られるだろう。
――死んだ後に。




