シーン3:距離を取られる日常
午前の座学が終わり、
次の実技に向けた準備時間。
教室では、
自然発生的にグループワークが始まっていた。
「じゃあ、この四人で――」
「俺、そこ入るよ」
椅子が引かれ、
声が重なり、
小さな輪がいくつもできていく。
ディアナの周囲だけが、
妙に空いていた。
誰かが意図的に避けているわけではない。
ただ、
最初の一歩を踏み出す者がいない。
気づけば、
全員が配置についた後で、
ディアナだけが立っている。
教官が視線を投げる。
「……ヴァルツァークは、
空いている班に入れ」
短い指示。
責める調子はない。
入れられた班の生徒たちは、
一瞬、動きを止める。
それから、
何事もなかったように頷いた。
「よろしくお願いします」
形式的な挨拶。
それ以上の言葉は、出ない。
実技演習のチーム編成でも、
同じことが起きる。
指名制。
上位から順に、
仲間を選んでいく。
名前が呼ばれていく中、
ディアナの番は来ない。
誰も、
あえて彼女を選ばない。
最後に残った枠に、
機械的に割り当てられる。
理由は、明確だ。
選ぶ必要がないから。
入れなくても、勝てるから。
入れたら、すべてを任せてしまうから。
演習前、
装備確認のために並ぶ。
ディアナが一歩前に出ると、
隣にいた生徒が、
言葉もなく半歩ずれる。
距離。
ほんの僅か。
だが、
繰り返されることで、
明確な線になる。
敵意はない。
嫌悪もない。
あるのは、
畏怖と、回避。
そして――
信頼の欠如。
ディアナは、
それらを感情ではなく、
現象として受け止めていた。
(孤立しているから、死ぬんじゃない)
孤立は、結果だ。
(孤立していても、勝てるから、死ぬ)
一人で完結する存在は、
この世界では危険だ。
誰にも必要とされず、
誰の判断にも影響されない。
だからこそ、
“処理”できる。
ディアナは理解する。
ここで生き残るために必要なのは、
仲間でも、信頼でもない。
自分がいなくても戦場が回る状態を作ること。
それができない限り、
彼女は、
最強である限り、
死に続ける。




