第一章 「最強であることの危険」シーン1:学園の朝
ヴァルツァーク学園の朝は、静かな緊張から始まる。
正門前には、すでに多くの生徒が集まっていた。
制服の腰には魔導銃。
肩には訓練用のケース。
それらを携える姿が、日常として溶け込んでいる。
登校と同時に行われるのは、簡易的な魔力検査だ。
門の脇に設置された魔導具に手をかざし、
数値を確認しながら上級生たちが雑談を交わす。
「昨日の調整、少しズレてたな」
「大会前だから、無理はするなよ」
内容は穏やかだが、
話題は自然と戦績や実技に流れていく。
ここではそれが、普通の会話だった。
中庭に入ると、
正面の掲示板に人だかりができている。
戦績ランキング。
個人、班、総合評価。
最新の更新が表示され、
誰が上がった、誰が落ちたと小声が飛び交う。
その空気が――
一瞬で、切り替わった。
ディアナが門をくぐった瞬間だった。
会話が、途切れる。
完全な沈黙ではない。
だが、確実に音量が落ちる。
視線が集まる。
好奇でも、敵意でもない。
評価と警戒が混じった、重たい視線。
誰も、近づかない。
すれ違いざまに、
「おはようございます、ディアナ様」
そう声をかけられることはある。
だが、どれも形式的で、
それ以上の言葉は続かない。
返事をしても、
会話にはならない。
ディアナは、足を止めない。
(ああ、これだ)
胸の奥で、静かに思う。
これは見覚えのある位置だ。
かつて、モニター越しに眺めていた――
孤高の最強の立ち位置。
誰よりも評価され、
誰よりも距離を取られる場所。
居心地が悪い、という感情は湧かなかった。
それよりも、
別の感覚が、はっきりと浮かび上がる。
――危険だ。
ここでは、
この位置に立ち続けた者から、
消えていく。
ディアナは、
何気ない歩調のまま中庭を進みながら、
改めて理解していた。
最強であることは、
守られている証ではない。
狙われる理由そのものなのだと。




