11/99
Ⅺ.締め
フランソワが、静かに告げた。
「本日は、
学園への登校日でございます」
その言葉は、
宣告に近かった。
物語が始まる合図。
逃げ場のない、日常の再開。
ディアナ――
高梨洋子は、ゆっくりと息を吐く。
胸の奥には、
まだ恐怖がある。
だが、それに呑まれることはなかった。
代わりに、
わずかな余裕が生まれている。
口角が、ほんの少しだけ上がった。
それは、
希望でも、強がりでもない。
状況を理解した者だけが浮かべる、
覚悟の笑みだった。
「そう」
短く答え、
視線を前に戻す。
「じゃあ――
死なないようにしないと」
誰に聞かせるでもなく、
淡々とした声で。
その一言で、
彼女はもう、
物語の被害者ではなくなった。
英雄にはならない。
悪役を演じ切る。
勝たず、正しくならず、目立たない。
それが、
この世界で生き残るための、
唯一のルール。
天蓋の向こうで、
朝の光が差し込む。
ディアナは立ち上がる。
――戦場は、学園。
――武器は、沈黙。
こうして、
死なないための戦いが、
静かに始まった。




