Ⅹ.目標設定
洋子は、動かなかった。
パニックにはならない。
泣かない。
叫ばない。
それらはすべて、
この世界では危険行動だと、
直感が告げていた。
一度、目を閉じる。
ゆっくりと、鼻から息を吸い、
口から吐く。
深呼吸。
現実で何度も使ってきた、
自分を落ち着かせるための動作。
心拍が、少しずつ落ち着く。
恐怖は消えない。
だが、支配はさせない。
洋子は考える。
ゲームの中で、
ディアナが死ななかったルートはない。
それでも、
**「即死しなかった状況」**は、確かに存在した。
目立たないとき。
前に出ないとき。
誰かを庇わなかったとき。
英雄にならなかった周回。
頭の中で、
プレイログを一つずつ辿る。
そして、
一つの結論に辿り着く。
「……目立たなきゃいい」
声は、低く、静かだった。
「勝たなきゃいい」
それは敗北宣言ではない。
生存戦略だ。
「正しくならなきゃいい」
正論は、
この世界では弾丸と同義だ。
誰かを導く言葉も、
誰かを救う行動も、
フラグになる。
洋子は、理解していた。
ここで確定したのは、
一時的な方針ではない。
物語全体を貫く、
ただ一つの目標。
――死なない。
そのために、
最強であることを捨てる。
悪役であることを、
徹底的に引き受ける。
ディアナは、
世界を変えない。
誰も救わない。
ただ、生き残る。
その覚悟が定まった瞬間、
物語はようやく、
静かに動き出した。




