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同じ歌
「……♪ ~~~~♪」
歩いていると、ふと、年かさの女とすれ違った。
女はこちらを見て足を止めると、少し怪訝そうな顔をし、また歩き出した。
いかん、いかん。また、悪い癖が出ていたらしい。
女の様子を見た男は、心の中で反省し、口を堅く結んで歩き続ける。
また何か、歌を口ずさんでいたのだろう。仕事が上手くいった後は、すぐこれだ。
まあ、仕方がない。今日の仕事は少し、手こずったのだ。
歌の一つや二つ、許して貰えるだろう。
やがて辺りに人気のない場所までたどり着いたことを確認した男は、足を止め、上司に電話を掛けた。
「はい、俺です。手こずりましたが、上手くいきました。後始末はお任せします。はい、また」
男は電話を切ると、再び歩き出した。
さあ、帰ろう。家では妻が、夕食を作ってくれているはず。
そうだ。仕事が上手くいった祝いに、酒でも一本、付けてもらおうか。
何しろ、今日は大変だったのだ。危うく、こちらがやられるところだったのだし。
何とか隙を見て、こちらが先手を打ってやったが。
男は知らず知らず、また歌を口ずさみ始めた。
それは先ほど『仕事』で片付けた相手が、余裕ぶってこちらへと向かってきたとき、口ずさんでいた歌と全く同じものだった。




