私とあたし
毎年お盆は、家族そろって、田舎のおじいちゃんちで過ごしていた。
ただ、おじいちゃんちの裏手には薄暗い森があり、幼かった私には近づかないように言われてた。
何でも、行方不明になった人もいるという、いわくつきの森だった。
そんな話を聞かされて育った私は怖くて怖くて、注意されるまでもなく、森に行こうなんて思わなかった。
けれどもある日。
ちょっとしたことで父に怒られて、泣きながらおじいちゃんちを飛び出した私は、いつの間にか、森に足を踏み入れていた。
真夏なのにひんやりとした空気や、知らない鳥の声。不意に、がさっと音を立てる茂み。
そのどれもが恐ろしく思え、泣きながら森を出ようとした私は、どこをどう間違えたのか、森の奥、湖のほとりまで迷いこんでしまっていた。
「わあ……!」
その光景を見た途端、涙が引っこみ、感嘆の声を上げていた。
それほどまでに、その湖は美しかったのだ。
水面はさざ波ひとつなく、辺りにそびえ立つ木々を正確に映し出していた。
まるで、鏡のように。
私は引き寄せらせるようにして湖畔に近づき、しゃがみ込んで、水面を覗き込み──。
その途端。体を抱き止められ、湖から引き離された。
見ると、父親だった。
「さっきは言い過ぎた。けど、この森には近づくなと言っただろ? ……行方不明者がいると言ったけど、本当は違うんだ。この湖には魔物が住んでるらしく、覗いた者を別人のように変えてしまうといういわれがあるんだ。……何ともないかい?」
「やだな、何ともないよ。ほら。別に、どこも変わってないでしょ?」
そう言って、父親の前でくるりと回ってみせる。
ほっとしたような父親の笑顔を見てとり、あたしもくすりと笑った。




