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7話 遺されたもの/愛の形

 このエリア内は廃れた住宅街の様相で、迷路等と比べて明確なゴールが見当たらない。ハリマ達には馴染みのない角張ったコンクリート住宅から続々と人造人間が出てくる。襲ってくる彼らの数に限りがあるのかどうかすら分からない。移動しながらの迎撃および探索を行う事となる。

 最前線を走るハリマは持ち前の防御力で人造人間の殴打をものともせず、突き飛ばしたり跳ね除けたりを繰り返す。隣のスグルは無駄のない関節技で秒も経たずして無力化していた。

 2人が注意を引き、安全を確保した場所をマリモとヨドミが調べていく。しかし住宅の中を捜索しても手がかりが見つからない。

 そしてサルダとイノリは単独行動。右手にナイフ、左手に刀剣を持つサルダは鮮やかな剣さばきで倒していった。長大な刀剣で敵を近づかせないよう気をつけながら、それでも接近された場合はナイフを首元に突き刺す。即座に引き抜き隙が生まれない戦い方をしていた。その時、家屋の屋根に立っていた人造人間がサルダの背中を狙い飛び降りる。


「尻尾もあるんだよね」


 ベルトの背中側に装備していたレイピアを自らの尻尾で掴み操った。降ってきた人造人間の頭部を貫き、動きが止まったところで刀剣を使い首を斬る。


「またいい感じの刃物が見つかったら口も使って四刀流にしようかな」


 一方でイノリは屋根の上を飛び移りながら戦っていた。彼女の手のひらには糸を射出するための穴があり、追ってきた人造人間の足に発射し引っ張る事で地に落としている。彼女の出す糸は巣を作る事はできないがこのように獲物を仕留めたり移動に使う事もできる。


「簡単、すぎる……なにか変」


 違和感を覚えたイノリ。ただ人造人間が襲ってくるだけのエリア。先に進むためには何かしらの条件があると見て取れた。

 それからも戦闘と探索が続き人造人間を殲滅する事に成功。しかし攻略の糸口が見つからなかった。出口らしき扉も見当たらない。6人全員で入口の前で座り、ひとまずの会議が開かれた。


「僕達、全員倒しましたよね?」

「そのはずだね」


 考え込むサルダは周囲をキョロキョロと見回しながら言った。


「なら、他に条件があるはずだがワタシとか弱いワンちゃんで探しても何も見つからなかった」

「か弱いっていうの、もういらないんだけど〜……」

「事実だろう」


 それを聞いたマリモが歯をむきだし低い声を出して威嚇する。だが可愛らしいものでヨドミは気にもとめていない。


「そんなことよりサルダ、一旦休憩か?」

「そうだね、俺はこのエリアも色々見てみたいし。知らない服や道具ばかりで気になるんだよ」


 そわそわしているサルダに気を使うようにヨドミが提案した。すぐさま彼は立ち上がって手を叩き注目を集めた。


「よし! 自由に行動していいよ。ただし何かしら手がかりを見つけたらすぐに報告すること」


 笑顔でその言葉を置いていったサルダ。発言の後半に差し掛かる頃には既に背を向けて走り出していた。彼の緑色の浴衣や3種の刃物はこれまで攻略してきたエリアで見つけたものだ。未知の物体に対する知的好奇心が抑えられていない。


「あのね、スグル。イノリね、さっき倒したものに気になるところがあるの。いっしょに来て」

「だそうだ。自分達はあいつらの残骸を探る。お前達は勝手にしていろ」


 サルダとは反対方向に歩いていく2人。ハリマ、マリモ、ヨドミの3人は取り残された。態度の悪いスグルへの印象はやはり良いものではないようで。


「なんなのあの人……ハリマのことを木偶の坊とか言ったりして、失礼過ぎるでしょ」

「サルダさんは何を考えてあの人を……」

「なんだ、聞いていなかったのか?」

「あ、はい……サルダさんは僕達2人で話し合って分かり合って欲しい、と言ってたので」


 それを聞いたヨドミは少し考え込んだ後に背を向けた。リーダーであるサルダの言葉に反するのはいかがなもの、だがこれ以上ハリマ達とスグルの仲がこじれてしまってはデメリットの方が多いと判断した。


「これからワタシが話すことは独り言だ。聞きたくなければ聞かなければいい。80年前のウロボロス対戦、その真っ最中にスグルは産まれた。あいつが生まれて初めて見た人物は自分の親ではなく……親を殺し、その返り血を浴びたハエトリグモ族だったそうだ。今でも鮮明に覚えているらしい」


 予想外の事実にハリマはテレパシーを発する事もできず、マリモは眉を下げ口を両手で塞いだ。


「ウロボロス達ドラゴン族との戦争の他にも、あちこちで小規模ながらも争いが起こっていた。その1つだ。ウロボロスに場所を奪われた者が他の者の場所を奪おうとする……悪意の連鎖。エルフ族はハエトリグモ族から一方的に攻撃された過去がある。だからエルフ達はハエトリグモを種族ごと嫌っている。あの時侵略してきた奴らはとっくに死んでるのに、だ。だがスグルは違う。80歳以下のエルフがスグルだけというのもあるが、あいつは過去のことを“どうでもいい”と吐き捨てる。それが例え戦争でも、過去の遺恨でも。無関心こそが争いの抑止力だと信じているんだ」


 ハリマとスグルは似たもの同士。サルダがそう言っていた理由をここで理解した。

 

『そんなの嫌だよ! 僕だけじゃない、2人がそうやって死ぬのは考えるだけでも嫌だし……だから、僕が変える。僕が別の体を手に入れるから。ゴーレムのルールを終わらせる』

 他種族の土地の邪魔にならないよう、孫が育った後に自死を選ぶゴーレム。

 

『愚かだと思ったよ。自らの子供に思想を押し付け行動を制限するなんてな』

 過去の争いをいつまでも引きずり、今もハエトリグモ全体を恨んでいるエルフ。

 

 ハリマとスグルはそれを否定し変えるため、自らが信じる平和のため進み始めた。それぞれが大切に想う女性と共に。


「そんなスグルのことをワタシとサルダは信頼してる。ワタシ個人としては“誰かのため”が理由だったり信念だったりするのは気に入らないが、あいつの“どうでもいい”は嫌いじゃない。自分のやれる範囲のことをやる、背伸びはしない、取れそうにない責任は背負わない……それでいて居住地確保のための地下開拓には積極的。理想の男だ」


 やや寂しさを感じさせる声を漏らしながら、サルダが走っていった方へとヨドミは歩き出した。彼女の背中を見ながらハリマは思いを馳せる。


「スグルさんは僕の思想を否定していなかった。僕と同じようなものだったっていうのもあるだろうけど……ああ見えて、僕達のことも心配してるのかも」

「でもあの態度はどうかと思うよ〜……あれじゃ本心が伝わってこないじゃん」

「それはそうだね。でも僕の方から歩み寄ってみようと思う。ヨドミさんのおかげで納得いったよ」


 このテレパシーはヨドミには送られていなかった。彼女が事前に『独り言』だと建前を言っていたため、それを崩さないようにと気遣った。


 *


 未だ興奮が収まらないサルダは住宅の一室でボロボロのソファに腰掛け、先程見つけたタブレット端末に夢中になっていた。おぼつかない操作で目的もなく指を動かしているだけだが笑顔は絶えない。そんな中ヨドミが部屋に入ってくると興奮冷めやらぬまま早口でまくし立てる。


「ねぇこれ見てよ! 触る度に絵が変わっていくんだ! こんなの初めてだ……しかも1番気になるのは文字や言語が俺達と全く同一なところだよ。俺達の技術じゃ作れない代物なのに、おかしいだろう」

「ここが過去の文明の遺跡という可能性は? かつてここで暮らしていた奴らがいたんじゃないのか」

「うーん……本当にそうなのかな」


 楽しそうに疑問を持つサルダ。タブレットに表示されている画面には“十三神将”の文字と共に10人の人物の顔が映っている。それぞれの名前の記述もある。共通の言語でありサルダ達にも読めるものだが、明らかに文明の規模が違うと分かる住宅や機器、人物の様子にサルダはとある考察を立てていた。


「突然現れたこの地下空間、エリア毎にまるで違う様相、迷路のエリアで動力源になっていた謎の生物、これらの機械や人造人間、そして80年前にこの世界から姿を消したウロボロス達ドラゴン族。もしかして……まあ、ここからもっと進んでいけば分かるかな」


 *


 人造人間の残骸をひたすらかき集めていたイノリ。糸を扱う事で楽に作業できていた。彼女が気がついたとある違和感。


「これ見て、スグル。ここの部分くっつくの」


 糸による引き寄せ攻撃で戦っていたイノリだからこそ発見したもの。胴体部分の残骸に別の人造人間の腕を近づけると、吸い込まれるようにして合体。


「なるほど。別々の人造人間の部位同士だが何故か繋がる。パーツを集めていって完成させたら何かが起こるかもしれない……ということか?」


 スグルの問いかけに対し、イノリは大きく深く2回頷いた。自信満々の様子で毛髪の無い頭部、ボロボロになった脚部も繋いでいき人体が完成。すると次の瞬間、それは動き出し脚だけで立ち上がった。ノイズの混じっていない鮮明な女性の声が響く。


「わたしは、スターク……ゼロ」

「スタークゼロだと? それがお前の名前か。わざわざ自己紹介もしてくれるとは、随分と親切だな」


 細い胴体に似合わない屈強な両腕。左右で太さが違う脚。色のない表情。不気味なスタークが唐突に右の手のひらを2人に向けた。イノリと同じように穴が空いていたが用途は別物。圧縮された空気が射出されイノリの腹部に直撃。常人であれば無様に倒れ転がってしまう強力な一撃であったものの、イノリは両足を踏ん張らせ転ぶ事なく靴底と地面をすり減らしただけだった。


「……スグル。サルダ達を呼ぶ?」

「いや、自分達2人だけでさっさと片付けてやる」

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