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6話 異種族/価値観

「ど、どうでもいいって……!? どうしてそんな!」

「言葉の通りだ。木偶の坊、お前も理解できるはずだ。サルダから聞いたぞ? お前が『白』を求める理由はマリモと同じ身体を手に入れるためだと。それに比べたら戦争を止める、というのは優先順位が低い。違うか? 自分にはもっと優先する目的や信念ってやつがあるんだよ」

 

 腕を組んで背もたれに寄りかかり、舐めてかかるように煽る口調。しかし反論できなかった。現にサルダとの問答の際“世界とマリモどちらに手を差し伸べるか”どうかには後者を選んでいた。


「……とはいえ、自分はサルダに従うと決めている。お前の思想を否定はしない。地下を開拓するためにも最大限の協力を約束する。だからお前も“どうでもいい”という自分の思想を否定するな」

「……は、はい」


 揉め事を避ける選択をとった。サルダに認められ、リカ/オンと夢を語り合い分かり合えたばかりだ。ここで仲間割れをしている場合ではないと。するとハエトリグモのイノリが、再びうとうとし始めたマリモに気がつく。


「ねむいの?」

「あ、うん……」

「スグル、おしゃべり終わり。みんなでいっしょに寝よ?」


 スグルとハリマのピリピリとした空気を理解していないのか、部屋の端にあった白い毛布へと向かい両手で大事そうに持ち上げる。最初からこれを楽しみにしていたようで、ハリマ以外の3人分の毛布を部屋の中央に敷くと大の字で飛び込んだ。


「スグル、となりきて」


 中央で仰向けになるとスグルに両手を向けた。ハリマへ冷たい態度を取っていたスグルだったが彼女には従順で、黙って立ち上がりイノリの右に同じように寝転ぶ。手は繋がなかった。イノリは伸ばしていた手を引っ込めると少し俯いた。


「マリモ、こっち」


 今度はマリモに目を向け自身の左の毛布に誘導。眠気の限界が来ていたマリモは何も言わず頭から毛布に突っ込むとすぐさま寝息が聞こえてきた。一方ハリマには睡眠の必要がないため、マリモの隣にただ座るだけ。

 それから2時間ほど経った頃。ハリマはひとり寂しく思いを募らせる。戦争をどうでもいいと吐き捨てるような人物が、何故『光』(ライトニング)に加入できているのか。 多様な意見を持ち寄る、というのがサルダの方針だ。だからあえてこのような思想の持ち主を迎え入れたのだろうか。と考え込んだその時。スグルの目が開く。


「……少し話すか、木偶の坊」

「2人に聞かれたくないことでもあるんですか」


 物音を立てないよう慎重に外へ出た。月明かりだけが彼らを照らす。先に口を開いたのはやはりスグルだった。


「自分とイノリはここ2日間で地下のエリアを3つ攻略した」

「え、3つも!?」

「『スグルも誰かいい人見つけてきてよ』なんてサルダに言われたからな。サルダがお前を引き入れたように自分はイノリを連れてきた。それが大当たり。お前が力仕事担当ならイノリは繊細な作業担当だな。ただ……蜘蛛の種族は感情がほぼないから、なに考えてるのかまるで分からない。生後7日というのもあって行動が読めない」

「7日!? 成長が早いんですね」

「その代わり寿命は1、2年ほどらしい。地下を切り拓くためだけにこの命を使ってくれ……イノリの親はそう言っていた。愚かだと思ったよ。自らの子供に思想を押し付け行動を制限するなんてな」


 そう語るスグルの声は細かった。どこか寂しさを感じさせるような。彼の目的や信念を推測したハリマが思い切って質問する。


「もしかしてイノリにもっと他のことをやらせてあげるために……地下の開拓をすぐに終わらせたいんですか?」

「……話を聞いてたか? イノリは生後7日なんだよ。そして自分が『光』(ライトニング)に入ったのは10年前だ。会って間もない子供のために動くなんて、自分にしてはかなりの善行だな」


 しかし否定はしない。やはりあくどい人物ではないと確信したハリマは一安心。けれどもますます彼の本心が知りたくなった。


「それじゃあ『光』(ライトニング)に入った理由は10年前からのものってことですよね。スグルさんのこと、もっと知りたいです!」

「……もう寝る」


 一方的に会話を打ち切られてしまった。冷ややかな言葉と共に拠点の中に入っていく。少し驚いたハリマだったが呼び止めはしなかった。


 *


 日が昇り、世界にうっすらとした光が射し込んできた時。拠点の外に立ったままのハリマに明るい声がかけられる。眠気を感じさせないその声の主はサルダ。


「おはよう」

「サルダさん、おはようございます」


 まだ眠っている3人を起こさないよう、扉から少し離れて会話する事に。


「え? 口を聞いてくれないの? スグルが?」


 昨晩の事をサルダに話すと彼は意外そうに言った後、顎に指を添え考え込んだ。


「うーん、ハリマとスグルは似たもの同士だから気が合うと思ったんだけどねえ」

「え、僕とスグルさんが?」

「うんうん。でも俺から話すのは違うから……できれば2人で話し合って分かり合ってほしいね」


 スグルも露骨に嫌悪感を示している訳ではなく、何か事情があってのこと。対立し合っている訳でもない。対話のチャンスはいくらでもある。焦りはせずにゆっくりと距離を縮めれば良いと考えた。


「そうだ、俺は次のエリアの攻略の話をしに来たんだ。俺とヨドミで下見に行ったんだけど、あれは全員でやらなきゃ厳しそうだ。とにかく人手が必要なエリアだと見た。何も問題がなければ明日にでも出発したいな」


 *


 丸1日を使って体を休ませ万全の状態で挑む事となった。現時点で最も深い場所にあり、歩くだけで多少の疲労が重なる程。6人全員でしばらく歩き続けた先にあったのは灰色の扉。前もって練っていた策をサルダとヨドミが改めて振り返る。


「気をつけてね。入った途端にあいつらは攻撃してくる」

「ハリマはスグルと共に最前線を走り敵の攻撃を受け止める。ワタシとマリモはその後ろを着いて行って“動力源”の無力化に注力。そしてサルダとイノリはそれぞれ単独行動。ハリマ達の負担を減らすためにちょこまか動き回る役だ」

「前にも言ったけど、敵は生命を持たないような……“機械”とやらだ。遠慮せずに倒していいよ」


 話にだけ聞いていた敵。扉を開けようとしていたスグルの隣に立ち、サルダの声を後ろから聞きながら不安感を抱いていた。いくら“生命を持たない”と言えど、その姿形に問題があった。スグルが扉を開けついに彼らの姿が目に入る。

 ヒトの形をしているが灰色の無機質なボディ。眼球の役割を果たしているパーツは赤く光る。ハリマ達に気がついたそれらは膝や肘の可動可能な部分からガシャガシャと音を立て走り出した。表情一つ変えず向かってくるそれは“人造人間”だ。


「なにをボケっと突っ立ってる!」


 躊躇したハリマの前に出たスグル。迫り来る人造人間の足を蹴り、体勢が崩れたタイミングで首元に手を回し全力を込めた。悲鳴に近い音を響かせながら人造人間の首は折れた。


「さっさと行くぞ木偶の坊。お前の夢や願いを果たしたいなら一緒に来い」

「は、はい……!」


 人造人間を容赦なく投げ捨てたスグルに続いて駆け出した。倒れたそれにできるだけ意識を向けずにいたが、ノイズ混じりの今際の言葉が囁かれた。


「ゆる、さ……ない…………ギャラ、ク……」


 恨み節。どうしてか自分達と共通の言語で。深く考えない事にした。

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