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3話 子供の戯言/最初の試練

 ハリマは膝を曲げ、かがみながら室内へと。続いてマリモ、狼人の女が続けて入り扉は閉められた。内装は簡素なもので、入ってすぐ右には本が2冊しか並べられていないスカスカの本棚。左には木製のテーブルと4人分の椅子が。汚れやホコリも見当たらず小綺麗で、やはり新しい建造物だ。


「来てくれてありがとう、ハリマ」


 そして部屋の中央に立ち笑顔で待ち受けていた猿人。緑色の浴衣を着た男、サルダ。


「ちゃんと家族にも了承をとってきました! それにしても、今日は見慣れない服を着てますね……それも地下で見つけてきたんですか?」


 サルダは大きめの頬骨を上げ満面の笑みに。珍しい衣服を自慢するようにクルクルと回転し始めた。長い尻尾も大きく振っている。


「その通りだ。地下には俺達の知らない資源や情報が眠っている。それらへの興味も尽きないからな。3人じゃ開拓にも限界があるし、大歓迎しよう」

「だけどサルダ、か弱いワンちゃんも入れるのか?」

「ふむ……どうしようかな。ヨドミは嫌ってこと?」

「ああ。ハリマとは違って身体が弱い、体力も少ない、空間把握能力も劣ってる、元々のメンバーのワタシ達3人よりも優れている点があるわけでもない。理由がないだろう」


 かなり辛辣な言葉だったが事実でもある。マリモだけではなくハリマも何も言い返せていない。命の危険がある地下への出発。ハリマにとってもマリモを傷つける選択は取りたくなかったが、マリモ自身の願いを尊重したいという思いもある。一か八かの提案に出た。


「次の開拓、僕だけじゃなくてマリモも連れてってください。それで活躍できたらマリモも仲間に入れてくれるって……約束してください!」


 礼儀正しく上半身を曲げた。それにより起こった風圧によりサルダとヨドミの髪や服が揺れる。サルダは気持ち良さげに浴びていたがヨドミは警戒するかのように身構えていた。ゴーレム族の一挙手一投足で、他の生物はいとも簡単に絶命してしまうだろう、と。


「どうするヨドミ? 俺はこの提案、受けちゃうけど。ヨドミが反対したとしても受けちゃうけど」

「……やってみるがいいさ。結果は分かりきっている」


 マリモとは目も合わせようとはしていない。ジーンズのポケットに手を突っ込み不貞腐れたように壁にもたれかかる。対して笑顔で対応するサルダ。


「じゃあ早速今から行こうか? もう1人のメンバーはまた違う用事に出かけてるけど、帰ってきた時に驚かせてやろう。いつの間にかまた開拓エリアが広がってるってね」


 *


 地下への入口は綺麗に整備されていた。いつか人が住む事を考え環境が整えられている。無機質な空間では味気ないとサルダが判断し、草木や花、ランタン等のお洒落な装飾。階段を降りていく4人だったがハリマの頭部にあたる部分が時々擦れそうになっていた。


「僕がギリギリ通れるくらいですね……」

「あともう少し成長していたら通れなかっただろうし、これがベストタイミングだったかな」


 先頭を歩くサルダは浴衣の上からベルトを巻き、両の脇腹と背中の計3箇所に刃物をぶら下げていた。短いナイフが右、最も長い刀剣が左、そして背中にはレイピア。鞘には納められているものの必要とあらばそれらを即座に引き抜ける位置だ。


「やっぱり戦うこともあるんですか?」

「まあね。ただ相手は“生物”とは言えないような異形の者ばかりだ。実際に会ってみたら分かるけど、意思を持たず単純に行く手を邪魔してくるだけの存在だってね。生命という概念もないから罪悪感持たずに倒しちゃって大丈夫だよ」


 サルダの後ろを歩くヨドミも頷いていた。ハリマとマリモはやはり不安そうにお互いを見つめ合う。他人との争いどころか喧嘩すら経験したことの無い彼らには、戦いという概念をまず理解できていない。飛び込んでみたはいいものの緊張し言葉を発せないまま時が過ぎていった。


「ここが最初に開拓したエリアだ。もう人は住めるけど、まだ少ないね」


 窮屈な通路から広大な空間に出た。洞窟を切り開いたように真っ黒な岩石に囲まれたその空間の高さはハリマの体躯の3倍があり、街ひとつが丸ごと収まるような土地が広がっている。とはいえ建物はまばらであり発展途中だった。


「そもそもこの地下空間って、突然現れたんですよね?」

「ああ。20年前のことだ。資源獲得のための炭鉱だったんだが、とある日を境に謎の地下空間に様変わりしていたと。最初のこのエリアも10年は開拓できていなくてね。炎が燃え盛る過酷な環境だったんだ。アッツアツでたまんなかったよ」

「……そしてここを消化したのがワタシ達3人。『光』(ライトニング)を結成した直後にね」

 

 サルダだけでなくヨドミも自慢するように微笑んだ。人海戦術でも攻略できなかったというのに、たった3人でエリア全体の安全を確保するまでに至ったその功績を賞賛され『光』(ライトニング)は名を知れ渡らせた。これに関してはハリマ達も把握している。


「だけど問題はそこからだった。このエリアを中心として枝分かれするようにまた他のエリアと繋がっていたんだ。食虫植物が巣食っていたり、皮膚が裂けるほどの強風が吹いていたり、時間の流れがおかしくなっていたりするエリアだったり。幸いにも今まで死者は1人も出ていない」


 会話を交わしながら案内されたのはエリアの端にあった茶色い両開きの扉。これもハリマがかろうじて通過できる大きさだ。


「この先のエリアは初期に見つけたにもかかわらず未だに攻略の糸口が見えない。だけど君が活躍すること間違いなしだ。マリモの方は分からないけど……期待してるよ」


 そう言って扉は一気に開かれた。閉じ込められていた空気が風となり4人に吹く。攻略の糸口が見えない、と言われていた理由をハリマは瞬時に理解する。目の前にあったのは石で造られた通路1本だけだったが、その先には無数の分かれ道。迷路だ。だが単なる迷路では無い。通路の壁が少しづつ動き、段々と狭まっていく。圧死というタイムリミットが設けられた迷路だった。

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