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最終話 太陽の下で届いた想い

 全く関係のない別世界の人間の肉体を利用する。躊躇してしまうものだが聞き入れればハリマの願いが叶う。それに生きている人間ではなく、死んだ人間のものだ。罪悪感は薄い。


「どうする? 獣人の肉体は持って来れないかもしれないが、マリモと同じ時を生きたいという君の願いは叶う」


 既に地下の開拓という『光』(ライトニング)の主目的は果たした。後は個人的な願いのみが残っている。


「ねぇハリマ、私は……やって良いと思う」

「マリモ……」


 マリモが後押しした。ハリマの願い、とは言うがマリモとの関係を第一に考えた願いだ。彼女が同意するのであれば断る理由は無いも同然。


「マリモとそう変わらない年齢の子供の身体を持ってこよう。同じ体格、同じ寿命で生きられる。できれば……早めに決めてほしい。丁度良い死体が見つかったところなんだ」

「じゃあ……お願いしていいですか」


 道半ばで死んで逝った子供の身体を受け継ぐ。何も知らない人間のもので、遺族や知人には申し訳ないが譲り受けようと決心した。ハリマの胴体部分にユウキの両手が触れる。


「後悔はさせない。君達のためにぼくが……さあ、やるよ」


 ユウキの手のひらから白い光が広がり始め、ハリマを包む。段々とその光は小さくなる。岩石の身体がなくなっているのだと傍から見ても理解できる。だがマリモと同程度の大きさになったところで変化が。光に取って変わるように黒い煙と共に無数の腕が現れた。腕は煙の中からバラバラになった人の部位を取り出し、素早く正確に組み立てていく。これが『共有の白』の力。ユウキはこのように他の世界から持ってきた物質で地下空間を建造していた。


「……完成だ」


 ユウキのその声と同時にハリマの肉体は移り変わった。マリモよりも小柄、上下共に黒い衣服から肌が露出しているのは膝下と左手だけだがやけに細かった。黒い髪は整えられておらず跳ねており、首には赤色のマフラー。ようやく視覚を手に入れたハリマは、自身のこの姿を認識した途端に肉体の不備に気がついた。

 右腕と左眼が無い。左眼の部分には黒い眼帯が巻かれていた。しかしそれでも、念願の肉体だ。


「ハリマ……?」


 マリモの声で振り向いた。目尻は垂れ口は小さく、幼くてあどけない雰囲気を醸し出す可愛らしい顔だった。欠損している肉体だったがマリモは構わず駆け寄る。


「良かった、ハリマ……! どう、自由に動かせる?」

「だ……」

「なに? どうかした?」

「……大好き、です」


 か細い少女の声で。ハリマはそう言ってマリモの右手を掴んだ。唐突すぎる、改めての好意の告白に動揺を隠せない。


「え、今!? どうして!? でもうん私も大好き!」

「なんか口が勝手に動いた……でも、1番良い言葉だったかも。ユウキさんも、ありがとうございます」


 肉体を用意してくれたユウキへと礼を言おうとしたその瞬間、ユウキはバランスを崩し転倒、うつ伏せで倒れ込んだ。2人は慌てて駆け寄ったものの外傷や出血は見当たらない。


「ど、どうかしましたか!?」

「そのっ、からだは……死ぬ直前に右眼や喉もうしなっていた……だからぼくの肉体の一部を再構成して……与えた。そしてぼくは、もう……終わりだ」


 頭を上げたユウキ。彼女の右眼は消えていた。出血はせずただ穴が開いていた。

 

「そんな!」

「なあに、元々ぼくはもってあと半年だったから……少し早まっただけ。死ぬ前に君達の願いを叶えることができて……悔いはない。むしろお礼を言うのはぼくの方だ。最期に他人の役に立てて……嬉しい」


 足掻くユウキは仰向けとなり、ハリマとマリモの2人と見つめ合う。


「最後は笑顔で見送って……くれないか?」

「……はい!」

「うん!」

「はは……まさかぼくが、こんな幸せな最期を迎えるなんて。あぁ、これでぼくも………………く…………」


 息絶えた。笑顔のままで。残された2人もしばらくは微笑みを崩さなかった。すると死体は白い粒子となって分解されていった。ハリマ達の知る常識とはまるで違う死に様。これがユウキの常識なのだと無理やり飲み込む事にした。


「ユウキさん……ありがとう、ございました」

「私よりもかわいい身体、もらっちゃったね」

「えっ、そんなに? 僕は今初めて視覚を手に入れたけど、やっぱりマリモはすごくかわいいって思う。それ以上となると期待しちゃうよ」

「……よし皆のところに戻ろう! 皆に感想聞こう!」


 照れ隠しだった。マリモはハリマの手を強く握り引っ張った。


 *


 それから1ヶ月が経った。『光』(ライトニング)の拠点でメンバー全員が揃うと現在の状況を振り返る。ハリマがゴーレムではなくなった事でスペースに余裕ができていた。全員が椅子に座りテーブルを囲んでいる。


「地下の住居建設の目処も立った。土地が足りなくなる心配がなくなったから、皆安心してたよ……うん」


 サルダは少し寂しそうな声色。地下開拓の終了は、未知との遭遇の終わりも意味していた。大義をもってやっていたことだが情熱を失ってしまった。


「ハリマもその身体を手に入れた。ハッピーエンドだろう?」


 気の抜けた様子のヨドミが話題を逸らす。モチベーションが下がったサルダに変わって地下の建設現場の指揮を取っているのは彼女だ。


「だがハリマ……お前、妙な力を手に入れたんだってな」

「みせたら?」


 スグルとイノリは前もって話を聞いていた。頷いたハリマが左腕に力を込めると白いオーラが集まる。ユウキは粒子となって消滅したが『共有の白』はハリマに受け継がれていた。この力でできる事。


「この『共有の白』は“持ってくる”力だけじゃなくて“持っていく”力もあるみたいです。だから……」

「ま、まさか!」


 机を叩いて立ち上がったサルダは期待に塗れていた。未知への好奇心はまだ満たされない。


「ユウキさんが言ってた“他の世界”にも、多分行けます」

「俺も連れてってくれない?」

「まずは元々の僕の身体……ゴーレムの身体が何処に行ったのか知りたいんです」


 無視して語り始めサルダは唖然としてしまう。


「ハリマの意識が抜けたんだから、ただの岩石になってるんじゃない?」


 もっともな意見を提出したマリモ。けれどもハリマはどこか引っかかっている部分があったようで。


「一瞬だけ、感じたんだ。この身体に変わる前に。どこかの林の中に僕の身体が移動したこと。だから……」


 ゴーレム族は視覚が無い代わりに空気や温度の変化で周辺の状況を把握する。だからこそ視覚では感じ取れない情報も一瞬で理解できた。熱い脈動、出血、荒い息。殺し合いの雰囲気。


「どこかも分からない場所だけど、とにかく色んなところに行きたいんです。この世界も、少し見飽きてきたところだし」


 移動先での出来事は話さない。隠し事をするのは性に合わなかったが致し方ない。何よりマリモを危険な目に合わせたくないという意思が強かった。


「ねぇハリマ……もしかして1人で行こうとしてる?」

「え!?」

「俺も連れてってくれない? 見飽きたってのは一緒だ」

「全く、まだまだ付き合いは長くなりそうだ」

「その身体だと慣れてないから色々不便だろう?」

「イノリも、その身体のせんぱい。いろいろ教えられる」


 培った仲間との絆はそう簡単に切れるものではなかった。自分のやろうとしていた事は仲間から遠ざかり自分勝手に動く愚行だと思い知った。もう自分の肉体は強靭なゴーレム族のものではない。無茶をすれば怪我をし、体力にも限界がある。他の者の助けがなければ生きていけない肉体だ。


「ごめんなさい、勝手なこと言って。それじゃあ皆さんも着いてくるってことでいいですか?」


 一同は大きく頷いた。誰1人欠ける事なく地下の最奥まで攻略した、信じられる仲間達だ。例えどんな強大な敵が現れたって、力を合わせれば負ける事はない。根拠の無い自信。だが信じられる自信。

 ユウキが叶えてくれた願いはマリモと同じ価値観と寿命だ。これからもずっと、彼女と共に過ごすと誓う。もう一度マリモと手を繋いだ。それにより出来た影はブレのない、美しくハッキリとした形だった。

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