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12話 白の/反逆

 バソババソが埋まっていたエリアまで戻った一同は鉄製の扉を発見した。バソババソの背中に面するように設置されていたその扉はオレンジ1色に染まっており、スタークが言うにはこの奥が最後のエリアだ。ハリマが屈む事でようやく通れるサイズであり外開きタイプだ。


「これが最後のエリア……え、これは?」


 近づいたハリマが気がつく。扉に鉄板が打ち付けられそこに文字が刻印されている。


『この先、心の底から愛し合う2人のみが通行可』


 その1文を読んで最初に絶望したのはサルダだった。頭を抱え項垂れる。続いてヨドミも諦めの意を示す。


「俺は……この先を見れないのか」

「ワタシもだな。となると残りは」


 ハリマとマリモ。スグルとイノリ。それぞれが見つめ合ったがすぐに片方が譲る形になった。


「ハリマ達が行け」

「優先するのはハリマのねがいごとの方」


 スグルは微笑みながら後退した。表情筋が発達していないイノリも真顔ではあるが同じ感情を抱いているようで同様に下がった。もしもこの先に『白』があるのならば願いを持つハリマを優先すべきだと考えている。


「ありがとうございます……!」

「心の底から愛し合ってるって思われてるんだ……へぇ、ふーん」


 ハリマは感謝を示し頭を下げていた。対してマリモは恥ずかしそうに頬を赤らめていた。これまでの開拓や交流を経て、この2人に先を行かせる事に異論は無いというのがこの場の意見。マリモが扉を開き中の様子を確認すると、無機質な白い通路が広がっているだけだった。


「それじゃあもう行く?」

「僕達、絶対『白』を手に入れますから」


 今まで協力してきた仲間達に一時的な別れを告げる。『白』なんて無いかもしれない、等のネガティブな見解は口にしない。サルダは「何があったか後で詳しく教えてね」と心配はしていない様子。「獣人の姿になった時のための衣服はもう用意してるからな」とヨドミは準備万端だ。スグルが「ハリマなら大丈夫だと思うが……もし強敵が現れたならここまで戻ってこい」と言うと「また皆で力を合わせたら、だいじょうぶ」とイノリが続けて言った。

 不安は無い。信じられる仲間に背中を押される気分だ。手を振った後に通路へと足を踏み入れる。白い壁に囲まれた道は奥が深く何が待ち受けている分からない。


「わっ、なに!?」


 しばらく歩いた所で突然の変化が。壁、天井、床に数字が浮かび上がる。オレンジ色の『0』と『1』が無数に広がった。不安定に点滅するそれに驚き足を止めてしまった。


「進めなくなってる、なんてことはないし……このまま行こう」


 ただ数字が現れただけで阻まれた訳ではない。そのまま歩き続けようやく扉が見えてきた。今までで1番の大きさを誇り、ハリマの体躯でも余裕を持って入れる程だ。中身が見えない白く曇ったガラスの自動ドア。2人が近づき開いたところで中身が明らかになった。

 部屋の中央にある柱にはモニターが乱雑に立てかけられており、今まで開拓してきたエリアの映像が流れていた。そばにある机の上には壁の物とは違うモニターがあったがそちらは暗転している。


「え……人?」


 マリモが指さす。部屋の端に設置してあったベッドの毛布が膨らんでいた。マリモの疑問に応じるようにその毛布は払い除けられ、寝転んでいた人物が起きてきた。


「……おはよう」


 ベッドから降りたその姿。真っ白な長すぎる髪を持つ女性。一切の衣服を纏わず、痩せ細った裸を髪で覆い隠している。


「服! 服着た方が良いですよ!」

「ここに来てからもう20年は着ていない。めんどくさくなってね」


 焦るハリマには構わず、髪を退けてありのままの姿を晒した。


「君達のことはこの場所からずっと見ていたよ。君達の求める『白』とは……ぼくのことだ」

「あ、あなたが」


 地下の最奥、スタークの言っていた『白』が彼女。まさか人が『白』だとは想像していなかったハリマ達は上手く言葉を出せず戸惑う。そして彼女の外見にも違和感を持った。動物的な体毛や耳といった特徴が一切存在しない、人だ。この世界に住む生命体は何かしらの動物や虫、植物の特徴を持っているはずだった。


「残念ながら、ぼくの『白』は“願いを叶える”なんて力は有していない。それは『人形』の方だと言うのに……誰がそんな噂を流したのか。まあ予想はつくけど」

「え……願いは、叶えられないってことですか」

「ごめんね。ぼくの名前はユウキ。持っているのは『共有の白』だ。コピー&ペーストのようなもの……と言っても分からないか」


 柱にあるモニターを指したユウキ。開拓済のエリアを見るその白い瞳はどこか諦めを含んでいるようだった。


「20年前、ぼくは別の世界で“イシバシ”という男に襲われた。命からがら逃げてきたんだ。また襲ってきた時のための防衛手段を作るためこの地下に来た。引きこもってからの抵抗……ささやかな反抗。これがぼくの、白の反逆。勝手に空間を使ったりして、すまなかった」


 頭を下げると同時に髪が床を撫でる。ハリマ達にとっては訳の分からないことばかりだ。


「各エリアはそれぞれ違う世界から“持ってきた”んだ。だからエリア毎に様相が違ったんだ。簡単に進めないようにしていたが、よくここまで辿り着いた。バソババソまで倒してしまったのは予想外だったが。あいつには救難信号……目的地まで行って助けを呼ぶためのメッセージを乗せていた。だから手を出さず、大人しく見守っていれば何も被害は出ず終わっていたよ」

「私達は尻尾で殴られたんだけど……?」

「ほら、最初にハリマが殴ったでしょ? あれで敵だと認識しちゃったんだ」


 暗転していたモニターにデフォルメされた涙目のバソババソが映された。ユウキの思惑を完全に理解できた訳ではないが、妨害じみた事をしてしまったとハリマは後悔する。


「ごめんなさい……邪魔しちゃったんですね」

「いやいいんだ。全てはぼくが招いたこと。ぼくが……寄り添えなかったから」


 ユウキはイシバシから身を守るためにこの地下空間を作った。最後の砦はバソババソではなく、心の底から愛し合う2人のみが通行できる先程の通路だ。つまりイシバシには愛し合う相手がいないということ。


「もしかしてイシバシって人とユウキさん、あなた達は……」


 イシバシが愛している対象はいないのではなく、ユウキなのではないかと。だとすればイシバシはあの通路をどうやっても通行できない。しかしユウキは否定する。


「変な想像でもした? ぼくとイシバシの関係はそんなものではないよ」


 するとユウキはハリマの前まで歩いてきた。諦めだけではなく同情の意思も読み取れた。


「さっきハリマの願いは叶えられないって言ったけど。少し違う方法でなら可能なんだ」

「違う、方法?」

「ぼくの力は違う世界から生命や物体を持ってこれる。だから……」


 ハリマの右腕に触れたユウキは、決心した様子で目を見開いた。


「違う世界でたった今死亡した新鮮な死体を持ってくる。それに君の中身を入れて、新たな肉体とするんだ」

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