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第6話 信じる心(カケラ)と闇の中の悪魔(ゼパル) TAKE5

「な・・・・なんで・・・・」


 口が塞がらないかのように、か細い声が聞こえる。その意味は俺にも分かる。だって、俺もそう思ったからだ。


「当然じゃないですか」


 前方からの声。それはさっき、俺が蹴り飛ばしてしまった奴だ。だが、あいつの態度はそんな事等なかったかのようだ。


「今回は、3年前に起きた事件―――いえ、事故の贖罪会なのですから、当事者が揃うのは当然です」


 声だけを聞いていれば、嬉々として語っているように感じるが、顔が見えてしまう現状況では、それは途轍もないくらいに、苛立っている。


「神崎先輩は、故在って覚えてはいないのでしょうけど、その女、卯月さんなら知っていると思いますよ」


 卯月の顔を見る。コイツに脅迫されていたのか、それとも今の言葉が引っ掛かるのか、俯いたまま唇を固く閉ざす。ぎりっという音を微かに口元からもらしながら。


「・・・・・どういうことだ?」


「つまりはですね」


 大きく、彼女は息を吸い、堂々と、まるでこの場に観客がいるかのように、芝居がかった口調で告げる。その瞬間、辺りの空気は大きく変化した。空気熱があるにも拘らず、凍てついた針が全身を刺す。例えるのなら、無数の武器に囲まれて威嚇されているような―――――

     

        

           「その女が、神崎先輩を傷つけたんですよ!!」


 一撃目、スナイパーライフルによる先制攻撃。


「その女は、高校時代に神崎先輩に告白し、その時フラれた腹癒せに神崎先輩を図書室に呼び出し、有ろう事か図書室の本棚に隠れ神崎先輩がその本棚の反対側に来た時に――――――」


 二撃目、ナイフによる追い討ちの乱撃。


           「本棚を倒し、神崎先輩に重症を追わせたッ!!」


 三撃目、火葬場並みの火力を以って塵も残さず。


           言葉が胸に刺さるとはよく言ったものだ。浅木の言葉はそれだけの力がある。いや、精神的な攻撃。通常の武器を言葉にして、心という肉体を痛めつける。内容がどうこうなのではない。これは声による・・・・精神攻撃そのものだ・・・・・・・・・!。言葉ナイフヒトを殺せる。そんなのは生きていれば、誰でもわかることだ。

    心はもう、何処にもない。受けた衝撃が大きすぎる。そして、俺の精神はゆっくりと、暗闇に落ちていった・・・・・。















 さて、暗がりの中あるはずのない眼を見開いた。在るはずのない耳が、いや、聞こえるはずのない声が語りかけてくる。


                 『おかしい』  『どうして』と

 

 俺は死んだんだ。肉体はどうかは知らないが、心は完全に砕けた。敗者は潔く消えるものだろう! これ以上、俺に何かを求めるな!!


           『なぜ』             思考を止める。


          『どうして』           ただ真っ白だ、塵もない。


          『だから』            自分はもう死んでいる。


           『あれ』             もう何もしたくない。


    『おかしい』           もういい・・・!こんなのはもうたくさんだ!


          『これは――――!』         もう、構わないでくれ!


            『見つけた』           もう止めてくれ!!


          『それは・・・・・』        あぁ・・・・・・!


 唐突に周りが明るくなる。あれ程暗かった空間が一瞬にして照らされていく。


 ふと、手の平に眼を遣る。何かを強く握り絞めている。ドクン、ドクンと脈打っている。そこで気が付いた。元の云っていた言葉が。そして、これが。これこそがそれなんだと!

 やっと、やっと―――――!



           

                  「『欠片ココロを、見つけたッ!!』」



             ■    ★     ○      ▲      ■



 一瞬だった。僅かに残っていたものが、俺を繋ぎとめてくれた。今もまだ俺は、暗がりの廃墟に居て、目の前には浅木が居る。

 周囲を見渡す。あれ程暗かった屋内が、明るく見える。『本当』が視える。


 此処で得た事が正当な真実なら、俺は―――――


「ショックを受けるのは当然ですよね。なんたって卯月さんと神崎先輩は、親しい友人同士で幼馴染。信じていたのに裏切られてさぞ、悔しいでしょう?」


                浅木の弁を、覆せるッ!!


「ハ・・・ハハは・・・ははははははっははああああははははははッ!」


 高笑いが響き渡る。それは開始の合図。此処からが俺の手番だ!


「な・・?! どうしたのですか?」


「いやいや、あぶねぇあぶねぇ。惜しかったな。もう少しでころされる所だったぜ、浅木」


「・・・・・どういうことでしょう?」


「どうもこうもねぇ。コイツはお前が仕込んだ狂言だ!!」


「な・・・・?! 馬鹿も休み休み云って下さいっ!! なぜそう、言い切れるのです!!」


 浅木が困惑する。しかしその困惑こそがそれを肯定している事には気付いて居ない。だったら―――――!


「簡単な事だ。さっきからお前、まるでその場に居合わせたかのように状況を説明してくれたな。何でだ? 部外者であるお前がどうして、事の詳細にそこまで詳しいんだ?」


「も、もちろんその場に居合わせたからですッ!! 私も図書室にいたのですから、分かって当然ですっ!!」


「いやいや、そこじゃねぇよ。俺が聞いているのはだな。

どうしてお前が・・・・・・・卯月が俺に告白して・・・・・・・・・フッた・・・ってことを知っていたのかって聞いてんだっ!!」


「あぁ・・・・・・・」


「お前の口振りからに、俺が卯月をフってそんなに時間が経ってない。なら噂にもならないはず。なのにお前はどうして、その事を知っていたんだ?」


「じ、時系列の問題です!! その出来事は過去の事、多少の軸ズレは許容範囲内です!!」


「なら尚更だ。どうして今になって三年前のことを穿り出す?」


「・・・・・ぁ」


 僅かに呻いた声が聞こえる。これがおそらく最後にして最高の決定打。


「そ、それは・・・・・かん、たんな、話で、すよ。だ、だってほ、ら・・・・・あれ、な、なんで・・・?」

 

 おぼつかない日本語での自問する。おそらく衝動的なもので覚えていないのだろう。よくあることだ。

だが、これで詰んだ。


「ま、未だです! 私は未だ負けてない!! 卯月さんが神崎先輩を傷付けたのは紛れもない真実ですっ!! 其れさえ成立していれば、後の事など不要っ!! この事実が真実である限り、私は負けてナイッッ!!」


 苦し紛れの一撃。さっきと同じように言葉がライフルの弾丸となって、放たれる。これだけでも、おそらく精神破壊マインドブレイクできる威力はある。だが――――


                  

                   「何勘違いしてんだよ、お前」


 俺のたった一言で霧散する。声の覇気も、奇怪な精神介入こうげきも、もう俺には通用しない!


「確かに、浅木の言う通り卯月が本棚を倒して俺に腹癒せしたのかもしれない。だが、それは第三者が語った『嘘』なんだよ」


「はあぁ?! 何馬鹿なこと言ってんですかッ!! そんな訳ないでしょう! 確かに私はこの眼でしかと――――――」


 先ほどの困惑は、もう浅木にはない。『コイツ、何筋違いなこと言ってんだ?』みたいな口振りだ。だが、これでいい。なぜなら、


  此処からは、俺しか知りえない、『真実』なのだから。


「『本棚が倒れるのを見た』っていいたいんだろ?」


「-―――――――ッ!! ・・・・ええ、そうですよ。その際に、卯月さんが居たのも確認しました」


「あぁ、そう。ならここで良い事教えてやるよ。


   俺はあの時、図書室には・・・・・行っていない・・・・・・んだよ。」


「――――――――――――――」


 辺りの人間全員が息を飲む。でもこれが真実なのだから仕様がない。


「俺は図書室には行っていない。だってそうだろう? 告られて、フッた次の日だぜぇ? 胡散臭いと思うのは当然じゃないか? だから行かなかった。もとから俺は、誰かを信じる事なんてできる奴じゃないし、だから卯月は、

 俺じゃない人間・・・・・・・を傷付けただけ・・・・・・・。そして、お前はその決定的瞬間を目撃はしたが、細かい処までは見ていなかった。だから、後から聞いた『卯月先輩が神崎先輩にフラれた』という話と、自分が見た『卯月先輩が本棚を倒した』ということを勝手に解釈しただけだ。まぁ、そんな解釈をしたのは、お前だけじゃなかったみたいだけどな・・・・」


 そう言って、卯月に視線を遣る。その表情は驚いてはいたものの、どこかほっとした様なものだった。


「そういうことだ。だから、こんな贖罪会なんて茶番は終わりだ。俺は、卯月をつれて帰らせてもらうぜ」


 浅木は、腰が抜けたように地面にヘ垂れ込む。瞳孔が開いたかのように眼を見開いて、俯きながら、ぶつぶつと何かを言っている。

 もう、コイツは負けだ。後は勝手にどうとでもなるだろう。


「やれやれ、大丈夫か、邑禾?」


「・・・・・・・ホント、君はどうしていつもそんなのよ・・・・」


「不服か?」


「馬鹿・・・・。そんなの当然じゃない。でも―――――」


 俯いていた顔を上げ、眼に大粒の涙を浮かべながら、囁くように


「・・・・一時の感情で、君を、傷付けないで、よかった・・・・・!」


 言って、ゆっくりと瞳を閉じた。

 





一応、今回で『卯月・浅木』編は終了になりますが、次回は後日談と次回予告をだしたいと考えています。

 今後とも、よろしくお願いします。

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