第5話 信じる心(カケラ)と闇の中の悪魔(ゼパル) TAKE4
「・・・・・実に無様ですね、卯月先輩」
私の目の前にいる少女は、吐き捨てるかのように、呟く。いや、正確には少女は私を見下せるところにいるのだ。でも、目の前ということには変わりない。この少女―――『浅木 京華』は、何がそんなにも嬉しいのか、気色の悪い、でもだからこそ、とても人間らしい笑顔で話しかける。
「ふふふ、あれ程邪魔で邪魔でしょうがなかった先輩が、今はこうして私に縛られているなんて・・・・!
あぁ、これも悪魔。貴方のお陰です。今、私は貴方に深く、深く感謝します」
「・・・・なに・・・いって・・・・」
手足を拘束され、身動きがとれず、私はただ首だけを使い彼女を見る。
「ふふふ、そんな眼をしても駄目なんですよ?絶対に逃がしてなんてあげませんから。だって先輩には、3年前の事件の清算をしてもらうんですから」
「・・・・っ?! アレは私の所為じゃ―――」
「そうですよね。そういうと思ってました。ですが、貴方はそうでも神崎先輩はそう思っているでしょうか?」
「――――――――ぁ」
「確かに、あの事件自体は『事故』でしたけど、あの場所に神崎先輩を呼んだのは、貴女なんですよ?
確かに、意図的なものではなかったと思います。いえ、意図的であったのなら、私は今頃貴女を殺してますから。でも、心の内では思っていたんじゃないんですか?神崎先輩に死んでほし―――――」
「止めて!! もう止めて」
私が懇願する。聞きたくない。私は悪くなかった。ただ、ただタイミングが悪かっただけなのに、なのにどうして―――――
「嫌ですよ」
こんなにも、冷酷な事ができるのか。きっと今の言葉は今まで聞いたどんな罵倒でも持ち合わせてはいないモノを持っていた。
「何楽になろうとしているんですか、卯月先輩。いえ、卯月さん。貴女がどうこう言おうがそんなことで私がやめるわけ無いでしょう?それだけ貴女は酷い事を神崎先輩にしたんですから・・・!」
もう、止められない。彼女はどうしてこうなってしまったの?この三年間でいったい・・・・・。
「と、そろそろです。貴女を囮にして神崎先輩をここに招かせていただきました。貴女はそこでしっかりと見ていなさい」
そう言って彼女は私の前から姿を消した。
◎ ★ ■
「ここか」
手紙に記されている町外れの廃墟に辿り着いた。工事途中で打ち切りとなってしまったのか、不完全さが目立ち、其れが反って気味が悪かった。
扉は開いている。誘っているのか、おそらく敵は元を人質に取っているのだろう。あいつの体なら、苦も無く捉えることができる。けど、分からない。敵の目的は何だ? 俺、誰かに恨みを買うようなことしたか、まぁ、多分そうなんだろうけど。
よし、考えても仕方ない。取り敢えず中に入ろう。俺はゆっくりと歩き出し、中に入った。
中の様子を端的に説明するのであれば、其れはまさに、外観を見たときに抱いた想像通りだった。つまり、とてもぼろっちぃ。一階のフロアだから広めに作られているから、窓から入ってくる日の光ではとても全てを照らし切れていない。
『きゃぁ!!』
唐突に悲鳴らしきものが響く。おそらく二階からであろうその声を聞き、自分に何ともいえない、苛立ちを覚える。
「くそ、遅かったか」
足を馳せる。まっすぐ正面にある階段を駆け上がる。そして、二階に至り、その後に俺は薄暗がりの空間に目を凝らした。
「あぁ、よく来て下さいました、神崎先輩」
そこには少女がいた。薄暗がりが徐々に消え、空間が明るくなる。天井の明かりがついたのだ。でも、未だに暗がりである。
「しかし、流石神崎先輩ですね。この分だと家に帰ってから直ぐ、ってかんじですか?」
振り向き様に少女は嬉々と語る。まるで待ち焦がれていた者が現れた時の其れと同じ、ってまんまじゃないか。
「さぁ、来てやったぞ。いい加減元を解放しろ」
「ハジメ? 一体誰ですか?その如何にもボーイッシュな方は?」
「惚けるな!」
「惚けてなんてないですよ。しかし、先輩ったら私に対しては関心ゼロですか。まぁ、仕方ない事ですけど。因みに、その言い方だと私が人質を取って、脅迫してるみたいじゃないですか」
「いや、十二分に脅迫してるだろう」
「そういうつもりじゃなかったんですけど・・・・まぁいいです。取り敢えずこれで役者は揃いました。
初めまして、神崎先輩。私、先輩が高三の時に高二だった『浅木 京華』です。今回に贖罪会の立役者です」
「はぁ、お前何言ってんだ?」
贖罪会、口ではああ言いわしたが実際のところ、気になる。
「・・・・覚えてないんですか、3年前のあの事故を?・・・・・。」
「知らない、俺さ、過去の事一々愚だ愚だと気にする性質でないんだ。いいから、元を出せ」
先ほどまで浮かべていた嬉々とした表情は消え失せ、少女は俯き、ぶつぶつと何かを呟いている。当然、そんなの聞き取れたもんじゃねーけど。
「・・・・・そうですか、よく、分かりました。そうですよね、あれ程のことがあったんですから、
その時のトラウマで記憶が亡くなるのも、仕方ない事です。・・・・・・・ええ、悪魔、あなたの言うとおりでした」
そして、勢いよく、俯いていた顔を上げ、無感情でこう
「あの女、さっさと殺しておくべきでした」
言った。そして、彼女は180度回転、その後に駆け出した。その間およそ1秒未満。
「おい、待て!」
彼女は走る。全然追いつけない。いや、追いつけなくて当然だ。だって彼女は、時速50Kmはあろうかという速さで走っているのだから。
そしてそれから27秒後、彼女は足を止めた。右手にはいつ握られたのかさえ分からない、パターのゴルフクラブがある。そして、その目の前、顔を沈めている一つの人影を認識する。
クラブを大きく掲げる。俺はまだ減速していない。このペースなら、浅木がクラブを振り下ろす前に、人影の場所をずらせる。だから―――――
「やめろおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!」
浅木の背後から、スライディング。そのまま人影を掻っ攫うつもりだったが、有ろう事か其れは浅木自身に命中し、浅木を大きく飛ばす。
・・・・・・一応、結果オーライか。
「おい、大丈夫か! はじ―――――」
その瞬間、言葉を失った。そう、目の前には両足を失った少女ではなく、数日前に再会した級友だった。
「卯月・・・・・」
「神崎君・・・・・」
そこで周りの空気が、一瞬にして、凍りついた。
今回は、遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
少々、用がありましてそちらの方に行ってました。
さて、今回のお話ですが、気付かれた方も少なからずだと思います。
断っておきます。此処に登場する『浅木 京華』と元老院に登場する『浅木 京華』は別物です。しかし、まったく違うというわけではなくですね、平行世界上の『浅木 京華』の辿るであろう一つの可能性なわけなのです。そう考えてください。決して、名前を考えるのがメンドかったから~、なんて理由ではないですよ!決して!
まぁ、そんなこんなで。次回もお楽しみに、です。