第3話 信じる心(カケラ)と闇の中の悪魔(ゼパル) TAKE2
今日は、とても素晴らしい日だった。だって、私の前に、決して叶うはずのなかった奇蹟が起こったのだから。ほんの少しの、刹那とも思える、時間の中にも、光が当たって照らしたのだ。でも、こんな奇蹟は二度と起きない。絶対に。ああ、我が闇の中の悪魔、もう私は心も体も、全てが貴方好みの『闇』となった。もう、如何なる奇蹟もお前の障害にはならない。当然、私の意志も。もう殺してくれだなんて無粋な事は言わない。絶対にして唯一の真実を、私はこの場を持って放棄する。だから私を、遥かなる闇の深淵に誘え!そして!
親愛なるヨルを私の手に!!
☆ ★ ◎ ★ ☆
「音夜ッ!それは、とてもビックなイベントじゃないかッ!!」
翌日、俺は日課に成りつつある元の見舞いに来ていた。見舞いに来ているのだが、何でだろう?コイツ、俺より元気じゃないか?
「・・・・・あーあー、そーですかー」
「そうだよ!高校で別れたはずの同級生が、ばったり偶然にも出逢うなんて!もはや、フラグが立ってしまっているじゃないですかッ!何、卯月END?!中々に啜られるじゃないか!!」
・・・始まった。井上 元のスキル『幻想体現』。これは、妄想のネタを見つけると、それに対してありとあらゆる『結果』を自分の中でシュミレートするという何とも傍迷惑なスキルだ。しかもそれが、自分ではなく他人であるところがまた性質が悪い。
まぁ、端的にいえば、重度のオタクなのである。
「・・・・・大体なぁ。お前は『女』なのにどーしてそうなんだ・・・・」
「何いってんだよぉ。ボクは、君が、今にもギャルゲーの主人公になって居そうで、興奮しまくりなのにぃ~!!あ、ちなみにいうけど『ボクEND』だけは勘弁してね。そんなの一番詰んない展開だからさぁ~!!」
「・・・いや、俺が言いたいのはそんなことでなくだな――――」
「分かってるよ。高校の同級生らしいけど、卯月邑禾に関することの大半の事が君には記憶にないってことだろ?忘れてるってことは無さそうだけど」
「・・・・どーだか。最近色々なもんが分からなくなってきてるしな。記憶障害があっても不思議じゃない」
「音夜が記憶障害・・・か。軽いノリで言ってるみたいだけど、結構それって重大な欠陥じゃないの?」
「全然。分からなくなるつっても、昔の事だし。過去が消えたってどうってことはないだろ」
「・・・・ハァ。前々から思ってたけどさ、君は過去に対してそんなにも消極的なの?いい思い出とか全然聞かないしさ。もしかして、過去になんかあった?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
俺は何となく、その質問には即答できなかった。いや、心当たりが在ってそうなっているわけじゃない。俺の過去は何処にでも在る有り触れたものだ。だから、これといったことはない・・・・はずなんがだ・・・・
「・・・・・ねぇ、音夜。こんな話を知っているかい?
ある心理学者が言ってた事なんだけど『人は過去から形成され、それを失うという事は、自分を失うということだ。だがそんなもの、悪魔と契約しない限り在り得ない』ってさ。
人は必ずしも過去に執着があるものなんだ。思い出だったり、悲劇だったり。それがどんなに酷くて忘れたいものでも、過去は絶対に消えない。けど、そんな中で、過去を自分の中から完全に抹消した人も居るんだ。所謂、『記憶喪失』ってやつだね。でも、偶然そうは生らないそうだよ。あれは紛いなりにも自分がそう望んだ事なのだから。科学的から見れば、そんなことはないのだけど。」
「詩人か、お前」
「ううん。そんなんじゃない。きっとこれは、的を射たことなんだと思うよ。心の中には悪魔が居て、記憶を消そうとする。でも、悪魔っていつも何かしらの契約がなければ行動できないんだよ。それが、決まり事だからね。だから契約が必要なのさ。まぁ、悪魔ってのがそれだけ微々たるものである事もあるけど。」
淡々と、まるでその全てを見透かしたように、こいつは言う。
俺には関係ない。 そう思おうとするが、全然、意味がない。だって、俺はコイツの話が、いや、コイツの声が無慈悲に、狡猾に、俺を追い詰めている様にしか、聞こえないから。
心当たりが、在るのかもしれない。だからその拒絶反応で、そう感じているだけなのか・・・?
俺の中の悪魔は、一体何を、求めているんだ・・・・・?!
「・・・・・悪い。もう、帰るわ」
「・・・・・そう。気をつけて、ね」
「・・・・ああ」
そう言って、俺は、席を立ち、帰路に着いた。
――――――――一人きりの病室―――――――――
ボクはまた、まどろむ。音夜が居なくなると直ぐ、こうなる。ボク以外はここには居らず、ただ静寂だけが支配する。
「大丈夫かなぁ・・・・・・音夜」
何かを思い詰めている感じがした。きっと、その、ウツキって子に何等かの関係があるみたいだけど・・・・・。
「どうでもいいよね、そんな事」
そうだ。ボクにとって重要なのは、これからも音夜が
ボクのトコに来ることができるかどうかってこと。足がなくて、是と言った友人を音夜以外には居らず、本当に愉しみな事といえば、それこそ音夜との会話だけ。だけど・・・
「その子が、ボクから音夜を奪おうって言うのなら・・・・・殺しちゃおうかな」
トゥルルルルルルル。トゥルルルルルルルル。
電話の着信音が聞こえ、手に取った。ああ、またアイツからか。
「何、この時間には掛けて来ないでっていつも言ってるでしょ?
え?・・・・あ――――うん、そう。分かった。そうするって。ちゃんと家の仕事はするから安心して。お爺様にもそう伝えて、『貴方の孫は、しっかりお役目を果たしている』ってね。
じゃ、切るよ。 うん、じゃあね、琉仝」
ピッ
「・・・・・今日は、いい夢、見られるかな・・・?」
そして、ボクはとりあえずやる事もなくなったので、ゆっくりと眠りに付いた。
いかがでしたか?
これからもよろしくです