第2話 信じる心(カケラ)と闇の中の悪魔(ゼパル)
私は、後悔しています。あの日のことを、今でもずっと。それはまるで鎖のように私を縛り上げ、後悔と絶望を吸い上げていきます。いずれ、こうなるとは思っていました。だって私は、それほどの大罪を犯したのですから。幾ら懺悔しても、幾ら許しを乞うても、決して希望という光は私を照らす事などないでしょう。ただあるのは、私という罪人を、冷たく包む自責の闇。決して抜け出す事のできない闇の中です。その中で、悪魔はいつも囁いてきます。『過去を変えたくはないか』と。私は、それに頷くでも、首を振ったわけでもありません。只純粋に、どうしていいのか分からなくなったんです。でも、もし、許されるのなら。悪魔が囁きかけてくるこのこと自体が事実なら。どうかこの願いを、たった一つでいいから聞き届けてください。それが、悪魔の誘惑でも、断罪の神様の罰でも構いません。だから、そして、どうか
私を殺してください。
☆ ★ ☆ ★ ☆
元の入院している部屋を出て、それから直で病院を出た。
特に行く宛てもなく、丁度大学も休みなので、辺りをブラブラとしている。
欠けているモノ、ねぇ。そんなの絶対に一個や二個じゃねーよな。特に俺の場合は。昔から無感情で、これと言って得意な事や打ち込める事をない。いわゆる、ゆとりの世代みたいな奴である。
あれ、違ったっけ?・・・まぁいいや。関係ねーし。取り敢えずの取柄といえば、全てが平均的ってぐらいかな。とま、こんな取り止めのないことを考えていたそんなとき。
「あれ? 神崎君?」
後方より声が聞こえた。聞き覚えのない声・・・のはずはないのだけど。第一、俺の名前知っているようだし。取り敢えず振り返ってみた。そこには、クリーム色のショートヘアーの、同い年ぐらいの少女がいた。
「・・・・・・・・どちら様ですか?」
「はぁ、どうして君はそういうのに鈍いかなぁ。あたしだよ。邑禾だよ。
『卯月 邑禾』。思い出した?」
卯月・・・・どこかで・・・・いや、気のせいだ。知らん知らん。けど、そうだとも言えるわけもなく。
「ああ、何となく思い出した(かも)」
「そう。ならよかった。高校の卒業式以来だから、彼是二年前だね、懐かしいなぁ全然変わってない」
「そうでもないけど」
「いやいや、誉めてるんだって」
そうは聞こえないけど。
「今日はどうしたの?こんなところで」
「それが、同じ大学のダチが入院しててさ、そのお見舞いの帰りってわけ」
と言っても、『同じ大学のダチ』で合っているとは思うけど・・・・あれ、そういえば、何処でアイツと知り合ったんだろう。感覚では、ずっと昔から知っているような気がするけど・・・・・・思い出せない。従ってどうでもいいことだと、脳が処理をする。
「ふーん・・・・」
そう言って、ゆっくりと視線を空に向ける。悲しそうに、それでも、弱さを感じさせない、そんな表情だった。
「・・・・まぁ、立ち話もなんだし。あそこにベンチがあるから、積もるはなしでもしよーよ」
そして俺は、促されるまま、ベンチへと足を運んだ。
それから、どれほどの時が経ったのか分からないほど、俺たちは話した。どうでもいいことから、今の自分の環境や、思い出話。少しずつ、何となくではあるが、卯月の事を思い出してきた。でも、どんなに話を聞いても、決して、思い出せないことがある。・・・・・実際、それが何なのかすら分からない事ではあるけど・・・・
「ねぇ、神崎君。君に一つだけ答えてもらいたいことがあるの。良いかな」
日が沈み始めて、辺りが夕焼けに包まれた頃、ふと、突拍子もなく、卯月が聞く。
「え、別に良いんじゃない」
「うん、ありがと。」
そして、彼女は一呼吸置いて、ゆっくりと、しかし力強く声を出す。
「もしさ、信じていた人に裏切られたら、どんな感じだと思う?」
「・・・・・さぁな。それなりに悲しいんじゃないか?信じて、信じられての関係なら尚更さ。裏切られたら信じられなくなる。一般論としてはこんな感じだな」
「なんか、その言い方だと自分は違う考えを持ってるみたいに聞こえるけど」
「ああ、もちろんあるよ。持論だけど。率直に言うと疑問なんだけどな。『そこまで信頼し合ってたのに、一回の裏切りで簡単に崩れるのか』ってさ。だってそうだろう?裏切った事に目が云って、その人の本当の考えに行き着いてないから、さ。ホントに信じてたんなら、最後の最後まで信じ続けるもんだとおもうぞ。」
彼女は少し、顎に手を当てて考えた。その後には、納得した様子で、俺に一言。
「うん、ありがと。お陰で色々と決心が付いたよ」
決心か・・・・・そりゃまた大層な。
「どう致しまして。じゃ、俺はこれで」
「うん、またね」
そして、俺たちはその場を後にした。あ、そうそう。ちなみに、ただ今の俺は、さっきと同じように、未だ『卯月 邑禾』について、何か重大な事を『忘れていた』ままなのだった。
これからもどうぞよろしく