日めくりカレンダーが七月三〇日で止まっている理由
ベッドの上、年老いた母がベランダにかかる洗濯物を見て、時折微笑み、時折顔をしかめる。五月の風は少し涼しげで肌寒かった。
「梢、今日は何日?」
「梢、今日は何曜日?」
「そうかい、そうやったね」
元教師だった母。宿題をやらないあたしはよく叱られた。そんな母が日付も曜日も分からなくなるなんて。悲しくなる。少しでも母にしっかりしてほしいと日めくりカレンダーを買った。
「今日は五月三〇日月曜日だよ」
カレンダーをめくりながら母に言うと「そうかい、そうやったね」と笑う。
仕事と介護の疲れでふと眠ってしまうあたし。ビリリビリリ、紙が破れる音に目を覚ます。やられた。ベッドの上に散らばる紙くず。せっかくの日めくりカレンダーはすでに未来の日付になっている。「もう、母さん」、これは失敗だったなと反省し、過ぎ去りし日の破片を集める。
「梢、今日はこの日かい?」
未来の日付を指して母が聞く。
「そうだね」
「そうかい、そうやったね」
母が優しく笑う。七月三〇日。またやられた。そう、あたしの誕生日だ。日付が分からなくても、曜日が分からなくても、大切な日は分かっている。
「今日、ケーキでも食べようか?」
「そうかい、そうかい」
母はさらに嬉しそうに笑う。母と過ごした誕生日を思い出して、あたしも笑った。
その日から日めくりカレンダーは七月三〇日のままだ。