5話 空飛ぶパーソナルトルーパー
ドンッ! という発砲音とともに私のスナイパーライフルから弾丸が発射される。マズルブレーキがきちんと動作しているようで、反動はあまりない。
銃身から放たれた弾丸は数機いる武装盗賊団の内の1機に直撃した。ジェネレーターを貫通したようで、その敵機は青白い光を放ちながら爆発する。
『ブルズアイ! ユウ機、前に出るぞ』
ユウの機体が推進剤を大量消費しながら全速力で敵機の群れの中へ突撃する。
彼は敵の内の1機に狙いをつけて円機動を取りながらアサルトライフルの弾丸を撃ち込む。でもその弾丸はシールドで防がれた。その彼のPTトレーナー改修機を取り囲む3機の武装盗賊団。
その時、私は信じられない光景を目にした。
「嘘……」
ユウのパーソナルトルーパーが空を飛んだ。
ありえない。事前に仕入れた情報と食い違う異様な光景。パーソナルトルーパーは飛ばないもの、そう決めつけた大多数の傭兵たち。
彼らがこの光景を見たらどう思うだろう?
まるでお化けでも見たような感覚に陥ったけど、程なくして私はハッと意識を取り戻す。慌てて空中にいるユウに向かって射撃を行っている敵重量級に狙撃するも、避けられてしまった。視線感知ロックが追い付かなかったせいだ。
すかさず次弾が装填されたのを確認し、良く狙って撃つ。
1発目、敵機のシールドに直撃。敵機はバズーカで反撃してくるけど私はスラスターを点火して横にスライドして回避する。
2発目、相手重量級の右腕に直撃し、敵機はバズーカが使えなくなった。
その時、コックピット内にアラートが鳴り響く。誘導ミサイルのレーダー照射を受けたせいだ。
大丈夫、私にはAMSがある。でもミサイルが飛んでくることは無かった。
ユウの機体が上空から急降下してきたかと思うと、敵の重量級をすれ違いざまにフォトンブレードで薙ぎ払って両断した。
そのまま墜落するのではないかと思ったけど、彼は当たり前のように反転して再び上昇していった。
しかし武装盗賊団が好き勝手するユウ機を許すはずもなく、2発の誘導式ミサイルが彼に向かって放たれる。
ユウは振り返りアサルトライフルでミサイルを1発迎撃し、もう1発はミサイルの進行方向と垂直になるように機動を開始し、それを振り切った。戦闘機同士の戦いで使われるミサイル回避方法と同じね。
『すまん、リロードする』
彼が弾倉を交換している間に私は3発目を発射する。それはユウのPTトレーナー改修機を注視していた敵軽量級のコックピットに直撃する。いくら高速で移動しているからと言っても、それが直線的で等速なら偏差射撃可能よ。
最後の1機がこちらを向き、サブマシンガンを乱射してくる。でもその程度の弾丸なら私のドランガはびくともしない。有効射程外から撃っているせいもあるだろうけど。
その敵機に向かって空中から銃弾の嵐。その銃弾が敵機の弾薬に直撃したようで、敵機の腰元で小規模な爆発が数回起こった。
姿勢を崩す敵機。その隙を逃すわけにはいかない、4発目の弾丸が私のスナイパーライフルから飛び出し、敵機のジェネレーターを貫いた。
青白い爆風を背景にゆっくりとユウが降りてきて、難なく着陸する。
『ホリーのおかげで楽できた。逃げ回るだけでも敵が減っていくのな』
「貴方ねえ……」
楽が出来たのは私のほうよ。
ユウの戦い方は面白い。見ていてワクワクする。こんなに心が躍ったのはいつ以来だろう? リアルでもそれなりに刺激のある人生を送っているけど、ここまで楽しめることは早々ない。
彼のパーソナルトルーパーなら飛んでいけるはず。あの地平線の先へ。
* * *
【BtHO】Beyond the Horizon Online part486
672 : 名無しの傭兵
デクスト・ネスト破壊のミッションが一覧にあるんだがこれってむずいの?
673 : 名無しの傭兵
あれきついぞ
ネストを活性化させるとデクストが湧いてくる
パーティ推奨
675 : 名無しの傭兵
情報サンクス
野良パーティ組むのも面倒だし受けるのやめとくわ
676 : 名無しの傭兵
野良パーティはな……
報酬の分け前で揉めるぞ
679 : 名無しの傭兵
>>679
それ
ギスギスオンラインはもう嫌だ
681 : 名無しの傭兵
やっぱソロプレイに限る
682 : 名無しの傭兵
でも本音は?
685 : 名無しの傭兵
パーティを組みたいです!!
687 : 名無しの傭兵
ぼっちの俺には縁のない話だがな
692 : 名無しの傭兵
なあ、PTトレーナー改修機が空飛んでたんだがあり得ると思う?
俺、夢でも見てたのかと思ったぞ。
694 : 名無しの傭兵
>>692
嘘乙
まともに高度稼げずに墜落するまでがセットだろどうせ
698 : 名無しの傭兵
嘘じゃねーよ
スクショはっとく
プレイヤー名は塗りつぶしてあるからな
【リンクを省略しました】
704 : 名無しの傭兵
めっちゃ飛んでるやん……
PTトレーナー改修機だぞ?
ありえるのか?
少なくとも俺は無理(ダイアランク
709 : 名無しの傭兵
>>704
隙あらば自分語り
>>698
これフライトユニット積んでるな
CランクからSランクまであるスラスターオプション
たぶんだけどAランク以上のフライトユニットを積んでいるんじゃないか?
あれ一応飛行向きって説明文がある
俺は使わんがな、飛べんし
716 : 名無しの傭兵
普通EランクのPTトレーナー改修機にAランクのフライトユニットを積むか?
その前に機体買い替えだろ。
Aランクのスラスターを積むなら最低でも機体をCランクにしたい
722 : 名無しの傭兵
スラスターのランク関係なしに飛べるだけで変態なんだよなあ
飛べないやつらが嘆き悲しむスレがあるくらいだし
726 : 名無しの傭兵
なんで俺らの機体にフットペダルってついているんだろうな
全く使わんのに
727 : 名無しの傭兵
おいやめろ
その言葉は俺に効く
730 : 名無しの傭兵
>>726
ぐあああああ!!!!(爆発四散
* * *
「おっ、リペアキットじゃーん。ラッキー。これホリーにやるわ」
武装盗賊団を倒した俺らはドロップ品を回収していた。おそらく他の傭兵を襲った後だったのだろう。彼らは結構なアイテムを抱えていた。
『いいの? ユウだって使うでしょ。リペアキットを持っておけば修理費を節約できるし、どこでも修理できるから便利よ?』
「いいんだよ、戦闘スタイルの違いがあるし。その代わりドロップ品のアサルトライフルの弾薬はこっちに回してくれると助かる。さっきの戦闘で結構消費したんだよ。おのれ誘導ミサイルとシールドめ……」
『それじゃあドロップ品の分け前はそうしましょ、残りは地下都市に戻ったときに売りましょうか』
「よし決まり。帰るまでが遠足っていうし、警戒しながら巡航速度で移動するか。背中は任せたぜ、相棒」
『相棒!?』
ホリーが素っ頓狂な声を出し、驚きの表情を浮かべる。
回収地点であるEVACポイントは複数用意されている。地上で活動する傭兵の生存率を上げるためにとられた処置だろう。その複数あるEVACポイントの内の一つに辿り着き、タッチパネルを操作して帰還申請を出し、俺らは昇降機の稼働を待った。
『ねえ、ユウ。地下都市に戻ったらお願いしたいことがあるんだけど』
「出来る範囲のことなら全然かまわないぞ」
『そう。……あのね、引かないでね? その、顔を触らせてほしいの』
何故だ。数あるパーツの内、何故顔を選んだ。手を触りたいとか、頭を撫でたいとかならまだわかるが、まさかの顔か。
「減るもんじゃないし別にいいぞ」
『本当? ハラスメント行為で通報しない?』
「しないわ! 逆だったらアウトだろうけど」
そんな会話をしていると昇降機が動き出し、地下へと向かう。
下降中は自然とお互いに無言になるが、ホリーがモニター越しにこちらをガン見してくる。俺の顔に何かついているんだろうか?
地下に到着した俺らはエスカレーターで格納庫まで運ばれた。とりあえずミッションの清算と不用品の売却を済ませる。そうして得たお金は俺とホリーの口座に半々に振り込まれる。
弾薬費を差し引いて46万BILLか。ミッション用の魔晶石を高く買い取ってくれたが、武装盗賊団のドロップ品も美味しかったな。かといって残高的に機体をロストしたらフライトユニット付きPTトレーナー改修機を購入することは出来ない。ベイルアウトが必要になるくらいまで被弾しないように気を付けなくてはいけない。
普段機体はもっと地下深くに格納されているので、ハンガー内を歩いて昇降機の上に機体を立たせ、システムをシャットダウンして降機した。
そんな搬入口に突っ立っていると他の人の邪魔になるので、ショップ等が点在する格納庫入り口に繋がる通路付近まで移動する。
警告灯の点滅とともに地下に向かう自機を眺めているとホリーが駆け寄ってきた。
「おまたせ。さっきの約束、覚えてる?」
「勿論。ボケるにはまだ早い」
「そう。それじゃ失礼して……」
彼女はそう言い、両手を使い俺の顔をぺたぺたと触る。触覚センサーがフル稼働しているようで、正直こそばゆい。その最中ホリーの顔を眺めていたが、あまりにも真剣な表情で俺の顔を触るものだから、それが面白おかしくて吹き出しそうになった。
「やっぱり……」
「なんか気になることでもあったのか? じゃなきゃこんなことしないだろうし」
「気になったことがあるのは事実ね。でも続きは話せないわ。VRMMOのマナー的にちょっとね」
「ふーん、じゃあ聞かないでおくわ」
「そうしてくれると嬉しいわね。ありがとう」
「どういたしまして。話は変わるけど明日どうする?」
「明日はさつ、じゃなくて用事があるからログインするの遅くなるけど大丈夫? 夜の9時くらいになるんだけど。それと買いたいものがあるから付き合って欲しいの」
「いいぞ」
「ありがとう。貴方って本当に優しいのね」
「礼なら俺のじっちゃんに言ってくれ。紳士とは何かってめっちゃ叩きこまれたからな」
「良いお爺さんなのね」
ホリーは終始優しい笑みを浮かべていた。会話を楽しんでいるということが分かる。
「で、買いたいものって?」
「スキンよ。服とかの見た目装備ね。私たちのアバター、初期装備じゃない? なんか味気ないし私のプライドがそれを許さなくって」
つまりお洒落をしたいのか。女の子だもんな、ファッションに敏感になるお年頃だろう。それを言ったら俺もファッションに気を遣うべきなんだが、如何せんそういうものに縁がない生活を送ってきた。
「じゃあ明日、服飾店に行こうか。ホリーのアバターなら何を着ても似合いそうだけど」
「そ、そういうことを軽々しく言うんじゃないの!」
だって事実じゃん。美形アバターは正義。俺は作れんかったけど。
そんなやり取りをし終えた後、俺はホリーがログアウトするのを見届けてから自分もログアウトした。
俺が先にログアウトするなんて言語道断。じっちゃんが聞いたら怒るぞ多分。