31話 要塞
俺らはしばらくの間休憩を取っていた。
モニターの中の人らは、各試合のハイライトを画面に表示しながら何やら解説をしている。
やはり注目度で言うとジキルらが一番であるらしく、彼らの特集のようなコーナーが展開されていた。
そのジキルらミリオンダラーの面々を褒め称える司会者と解説。一方でぼっこぼこにやられているばう丸。どこでここまで差がついたのか……。
ばう丸は弱いわけではない。事実、アリーナでマッチングした際は俺らコントレイルの面々はやられてしまったわけだし。ただ、ジキルらミリオンダラーがそれ以上に強かったというだけの話だ。
……これ大丈夫か? 対戦した結果敗退したパーティ以上に強い奴らと決勝戦で当たる可能性が高いんだぞ? 勝ち目はあるのだろうか。
それでも、ジキルとの約束を果たすべく、俺は勝利を重ねるしかない。
彼の飢えた瞳。あれはゲームを楽しんでいる者の目とは言えなかった。
時を同じくして、格納庫の奥の方で休憩しているよもぎと目が合った。
彼はその視線に気づき、手を振ってくれた。なので、俺らも手を振り返す。かといって会話をするということは無かった。
なおよもぎ氏はイケメンアバターであった。
絶対に勝つぞ、この勝負! イケメンに慈悲はない!
* * *
『5、4、3、2、1――0。試合開始』
対戦相手であるクラン『ここは俺に任せて先に行け!』は全員男アバターだった。
男性限定でメンバー募集をしているのかな? クランクラッシュが怖いとか?
真偽は定かではないが、もしかしたらそうなのかもしれない。
とにかく、敵の出方が分からないので、俺らはいつも通りの布陣で進む。
しかし、いくら歩を進めても敵機がレーダーに掠りもしない。
『奴さん。どこだ?』
「俺が聞きたい」
『敵機全員ECMと光学迷彩持ちなんですかね?』
『だとしたら、まるで暗殺部隊ね』
かといってその線も捨てきれない。
慎重にマップをしらみつぶしにし、死角を作らないようにしながらアリーナ中を歩き回る。
そしてようやくレーダーに赤い点が映った。
その赤い点のもとへ向かった俺らは、衝撃的な光景を目にすることとなる。
なんと、崖を背に、重量級が5機シールドを携えて待ち構えているのだ。
すると、オープンチャンネルで何やら音声が流れ込んでくる。
『――行け』
「なんだって?」
『ここは俺に任せて先に行け!』
何を言っているんだこいつら。
こんな大事な試合でロールプレイをしていやがる。
「あんたらがいるから進めないんだよ! 重量級でガチキャンプをするんじゃない!」
キャンプというのは所謂VRFPS用語で、定点から動かずに守りに入って戦闘を行うことを指す言葉である。
キャンプをする人のことをキャンパーという。
『いや、いいんだ。俺らの死に場所はここなんだ! だから、だから……俺らにかまわず先に行け!』
『なら通せってんだ、この野郎!』
ゲラルドが誘導ミサイルを大量にばらまいた。ばらまいた――のだが、それらは敵機ら5機に搭載されているAMSによってすべて撃墜されてしまった。
その直後、無数の弾丸がこちらに飛来する。
「あっぶねぇ!」
『物陰に避難するわよ!』
『はい!』
俺は飛翔して障害物の裏に一直線。
ゲラルドとミリアがシールドを構えながら後退し、ホリーはその陰に隠れながら下がっていった。
そして一旦作戦会議へ。
『あれ、どうすればいいんだ?』
『弾切れするまで不毛な消耗戦をするって手もあるでしょうけど……』
「それこそ相手の思うつぼだろ。完全に待ちスタイルだぞ、あいつらの戦法。なら裏をかくためにも何としても接敵するしかない」
『どうやってそれをやるって話なんだけどな』
するとモニター越しにドヤ顔を披露するホリーの姿が。
『私に妙案があるわ』
『どうぞ』
『まずゲラルドを壁にして敵陣まで乗り込んで――』
なんて素晴らしい案なんだ!
「よし乗った! その案で行こうぜ!」
『俺の扱いひでぇ! そもそも何でそんな話になったんだよ……』
『詳しく説明するわよ。まず、敵機は5機ともAMSを積んでいるからミサイル主体のゲラルド機は相当な不利を背負っているわ。それなら、チームとしての勝利に貢献してもらうため、タンクをやってもらおうと思って』
『まあ、やるんだけどな。それじゃ、その作戦で行こうぜ』
当人の了解も得られたところで、すぐさま俺らは行動に移った。
ゲラルド機を先頭に、次鋒ミリア。中堅ホリー。大将俺という順番で列を作る。
そして俺らは敵に向かって前進をし始めた。
その間敵陣から無数の弾丸が雪崩のように押し寄せる。
そして、俺らが敵陣に辿り着く前にゲラルドのシールドがひしゃげ、彼はそれをパージした。