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3話 普通は飛ばない

 何故こんなことになったのか、それは困っていた人がいたからお節介を焼こうとした俺のせいである。証明完了。

 彼女はホリーというプレイヤーネームらしい。頭の上を注視したら表示された。変な男に絡まれているときに助けに入った際には気づかなかったが……。こちらも若干焦っていたからということで許してほしい。


「俺はユウ。ホリーさん、災難だったな」


「ああ、頭の上の名前を見たのね。ホリーでいいわよ? 私もユウって呼ぶから。ユウには感謝してもしきれないわね、本当に」


「どういたしまして。それじゃホリーで。キャラクリガチるからあんなことになったんじゃないか?」


「好きでこの顔になった訳じゃないのよ。適当にやったらこうなったの」


「適当にやって美形が出来るなら今頃俺はイケメンになってるんだが」


 不気味の谷を越えない顔面をスクショしとけばよかったな。小一時間キャラクリしても化け物しか生まれなかった俺の美的センスを見せてやりたかったぜ。


「それで、ユウは何で格納庫でぶらぶらしていたの? さっきからここ空きだらけじゃない」


「実は初めて機体を購入したんだがメンテ中でな。それが終わって格納庫に運ばれてくるのを待ってたって訳」


「ふーん。私と一緒なんだ。私も購入した機体の搬入待ち」


「何買ったんだ? ちなみに俺はPTトレーナー改修機にした」


「初期機体で有名な機体ね。私はドランガにしたわ」


 そういやカタログにあったな。ランクEの重量級だっけ。同ランクのPTトレーナー改修機ですら鈍重も良いところなのに、重量級となったらそれは大変なことだろう。


「あっ、私の機体が来たみたい」


 警告灯がくるくると回り、昇降機が地下からせり上がってくる。そして格納庫に追加されたその重厚な機体は長物を背負っていた。

 スナイパーライフルか。重量級にスナイパーライフルというチョイスが渋い。


「へー。いいな、あの装備の組み合わせ」


「あっ、やっぱ分かる? いいよね、重い機体にスナイパーライフル。チュートリアルで試したけど、被弾しても照準がブレにくいし良い感じだったよ。でも結局勝てなかったんだけどね。あれは負けイベントよ。ミサイルが厄介だったからドランガにはアンチミサイルシステムを積んでるの。それと敵が多いときは肩部ミサイルを使って対処しようかなって。でもオプション代が結構――ちょっと話し過ぎちゃったね。引かないでよ?」


 えっ? あのチュートリアルの敵機ってそんなに強かったっけ? そう思ったが、よくよく考えれば俺も射撃戦では勝てそうになかったな。俺も結局3機に寄って集ってぼっこぼこにされたしあれは負けイベントと見ていいのかもしれない。

 しかし苦手な状況に合わせたサブ兵装にミサイル対策か。ホリーはゲーム慣れしているな。


「引かないぞ。それだけBtHOを楽しんでいるってことが分かる」


 ホリーは照れくさそうにし、顔を俯く。


「あーあ、ゲームを趣味にしている女子を理解してくれる友達がいればなー」


 彼女はそう言いながらこちらをチラチラと見てくる。おい、恥ずかしいからやめてくれ。

 ただ言わんとしていることは分かる。


「それじゃフレンドにでもなるか?」


「……っ! なるなる!」


 とのことである。なのでお互いに然るべき手順を踏み、フレンド登録を済ませる。

 彼女が小声で『やった!』と呟いていたのが聞こえたが、聞こえなかったフリをした。なんか恥ずかしいし。

 そんなやり取りをしている間に再び昇降機が稼働し、機体が格納庫に搬入される。その機体を見た俺は目を輝かせた。


「おっ、来た来た。あれが俺のPTトレーナー改修機」


「……えっ? ウィングが付いてるじゃない。空でも飛ぶの?」


「飛ぶぞ」


「冗談でしょう? PTトレーナー改修機よ? いえ、問題はそこじゃなくて……スラスター制御できるの?」


「チュートリアルで出来たから多分大丈夫」


「嘘でしょ……。ユウ、一回でいいから掲示板とかで情報を集めた方がいいわよ。パーソナルトルーパーは飛ばないのが普通だから」


「そうなのか。確かに最初は横に吹っ飛んだけどさ、慣れだと思うぞ」


 その言葉を聞いたホリーは頭を抱える。どうやら俺は相当変なことをしているらしい。

 でもフライトユニットが売っているくらいだし、空を飛ぶことは想定されていると思うんだよな。


「出会って間もないけど、ユウは嘘をつくような性格じゃないだろうし信じるわ。本当なら機体の試運転をしたいのだけれどね。ほら、もういい時間だから」


 VR機器に搭載されている時計機能を表示させると、時間は0時を過ぎていた。


「そうだな、そろそろログアウトするか。正直あの機体に乗りたくて仕方がないんだが、明日まで我慢しよう。明日どうする? 一緒にミッションでも受けるか?」


「そうね、一緒に遊びましょう。待ってるから」


「いいや、俺の方が先にログインして待っているね」


 ホリーは『なに張り合っているのよ』といいながらケラケラと笑っていた。

 そして手を振りながら光の粒子となりログアウトした。さて、俺もログアウトしますか。


 目が覚めるとそこは見慣れた自室だった。こんな夜中まで遊んでいて大丈夫なのかと問われると、これが実は問題がなかったりする。両親はシンガポールにいるし同居人もいないからな。所謂家庭の事情というやつである。

 キッチンへ行き、水道の蛇口から水を出してそれをコップで受け止める。水を一杯飲んだところでシンクにコップを置く。洗い物は明日の朝でいいだろう。


 ベッドに横になりながらスマホをいじり、BtHOの掲示板とやらを探す。するとお目当ての内容が書かれていそうな文字列を発見した。



 * * *



【Beyond the Horizon Online】空飛べないやつ集合 part37【BtHO】


203 : 名無しの傭兵

また墜落したったwww


204 : 名無しの傭兵

>>203

ドンマイ


205 : 名無しの傭兵

やっぱPTで空とぶの無理なんだって


209 : 名無しの傭兵

PTで空は飛べる

ソースはトップランカー


212 : 名無しの傭兵

>>209

あんなのスラスター性能でごり押しだろ

正直軽量機にBクラスのスラスターでもきつい

ってかこの組み合わせで俺は墜落した


214 : 名無しの傭兵

公式が声明出してる

理論上はEランクの機体でも空を飛べる


217 : 名無しの傭兵

>>214

理論は所詮理論なんだよなあ……

現実問題PTトレーナー改修機で空飛んで地面とごっつんこした初心者大量にいるだろ?


221 : 名無しの傭兵

そもそもフットペダル操作の仕方が分からない件について


222 : 名無しの傭兵

チュートリアルでも詳しく教えてくれないしな

AランクかSランクの機体を買ってから試すしかない

それでも墜落するんだけどな


225 : 名無しの傭兵

飛べる傭兵は頭のネジ吹っ飛んでる



 * * *



 どうやらホリーの言う通り、常識から逸脱しているのは俺の方だったらしい。でも仕方ないじゃん、実際に飛べるんだし。

 そう結論を出したところで、俺はスマホを置いて瞼を閉じるのだった。

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