表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/34

2話 機体購入と出会い

 ロボットは通称パーソナルトルーパーというそうだ。路上に沢山いるプレイヤーたちの会話を盗み聞きしながらBtHOの情報を集めた甲斐があった。

 この世界は平和とは言えない状況下に置かれている。地上には『デクスト』という化け物らが徘徊しており、とてもじゃないがパーソナルトルーパー無しでは地上に出ることは出来ないらしい。

 よって難を逃れた人類は地下世界に身を潜め、デクストに対抗する兵器――パーソナルトルーパーを開発。そして資源や情報を探しに地上に出ては地下世界にそれらを持ち帰るとのこと。

 ゆくゆくは地上に生活拠点を構えたいが、デクストや武装盗賊団の存在や企業や国家間のいざこざのせいでそれは難しいそうだ。


 化け物の存在もそうだが一番怖いのは人間だな、こんな状態なのに人間同士で争うのか。

 それでも資源等にはそれなりに恵まれているらしく、人口を維持できるだけの食料は勿論のこと娯楽などもある。

 地下都市を散策して得た情報である。ただ、飲食店で所謂ディストピア飯を注文した時は店主にドン引きされた。


「あれは好き好んで食べるものじゃないぞ」


 と店主の一言。


「ああ、でもそれで構わないよ」


 いいんだよ。現実世界じゃ味わえないものを食べたいんだ。謎ペーストと謎の錠剤を頬張りながらそれらを完食し。俺は店を出た。

 味? 味なんてものはない。VR機器には味覚は搭載されているが、そもそもディストピア飯に味付けがされていなかったのでただただ食感のみを味わった。

 いや、味はないから味わったという表現はおかしいのだが。


 閑話休題。


 目下の目標は機体、パーソナルトルーパーの確保である。チュートリアル後に地下都市に放り投げられた俺に与えられたものはスマートフォンに似た機器と、その中にある個人に紐づけされた口座とお金のみ。その額なんと1,000,000BILL。さっきのディストピア飯の注文のせいでちょっと目減りしたが、誤差の範疇だろう。


 機体の購入は開発企業傘下の店舗に赴いてするということも可能だが、そうすると購入機体の選択肢が狭まるとのこと(通りすがりの傭兵談)。

 そりゃ他社の機体を売るわけがないよな。ということで格納庫内にある機体・パーツ販売窓口で購入した方がお徳だとか。

 意を決して俺は格納庫のショップへ向かう。


「でしたらこちらはどうでしょうか? 『PTトレーナー改修機』という機体です。中量級に位置され、初期装備としてライフルとシールドがついています。オプションで肩部ミサイルも搭載することが可能です」


「でもお高いんでしょ?」


「今ならなんと……26万BILLです!」


 価格的にはお手頃か。


「お安ーい! でも一応スペックを教えてくれるか?」


「はい、こちらになります」


 店員はタブレットを操作して、機体のカタログスペックを表示してくれた。


 うーん、推力が低すぎるな。出力は程々だからある程度武装を積むことは出来るんだが。もしかしてチュートリアルの機体が高性能なだけか? とりあえずラインナップにあの軽量級の機体があるか聞いてみるか。


「PTトレーナー改修機の購入は保留で。機体名は分からないんだが、探してもらいたい機体がある。軽量級で、頭部に付いているアンテナが特徴的な機体なんだが。ウサミミみたいなやつ」


「『カリナC』でしょうか? タブレットに表示させますね」


 彼女は端末を器用に操作する。

 そして画面に新しく表示された機体はチュートリアルで乗った機体のそれと同じであった。


「そうそう、これ。おいくら?」


「あの、つかぬ事をお聞きしますが……お客様は新米傭兵ですよね? カリナCは結構高価な機体ですが、大丈夫ですか? 150万BILLほどしますが」


「ええ……。すまん、完全に予算オーバー」


 あの機体、操作感が結構良かったのになぁ。しかし金がない以上どうしようもないのも事実。仕方がない、諦めるか。

 その後もカタログを眺めていたが、予算内に収まり、かつスペックに納得がいく機体はなかった。つまりケチるとなるとPTトレーナー改修機しか買えない。


「PTトレーナー改修機だけど、お安くならない? あと武器はライフルじゃなくてサブマシンガンかアサルトライフルにしてもらえると嬉しい。肩部ミサイルはなくてもいいけどフォトンブレードはつけてほしい。あとスラスターも交換したいな」


「でしたら中古品になりますがこちらはどうでしょうか? フォトンブレードとスラスターは条件を満たしていませんが、アサルトライフルとシールドを携帯している機体になります。お値段は14万BILLです」


「じゃあ機体自体はそれで。フォトンブレードはグレードが低めでもいいけど、スラスターはちょっと良いものを付けたい」


「フォトンブレードはEランクのものをお付けいたしますね。スラスターですけど、こちらのフライトユニットはどうでしょうか? 重量がそれなりにあるので好みは分かれるのですが、飛行時の推力に定評があります。スラスターの性能はCランク相当になります」


「じゃあそれを付けようかな。予算というか所持金が100万BILLなんだけど収まりそう?」


「そうですね、機体価格を含めて78万BILLになるかと」


「おっけー、購入決定。じゃあその方向でお願い」


「分かりました。機体はメンテナンス後、5番格納庫に納品しておきます。お買い上げありがとうございました」


 俺は端末を通して決済し、格納庫入り口を通り抜けて5番格納庫へ向かう。



 * * *



「へーい。お嬢ちゃん、かわいいね。良かったら俺とお茶しない?」


 最悪。

 久しぶりに楽しめそうなゲームを見つけたというのに、いざプレイしてみたらこれ。何が楽しくてゲーム内でナンパなんてするんだろう? 私はBtHOで遊びたいだけなのに……。

 キャラクタークリエイトで自分の顔をスキャンなんてするんじゃなかった。初期設定されている顔なら彼らも声をかけてこなかっただろうし。

 皆が求めている『柊結花ひいらぎゆいか』を演じるのは現実世界だけで十分。VRの中ではありのままの自分、『ホリー』でありたい。


「ごめんなさい、お茶は結構です」


「そう言わずにさー」


 駄目。この手のタイプの人はこちらが折れるまで付きまとってくる。それを現実世界で嫌というほど知った。

 だから私に出来ることはどうにかして、強引にでもこの場から離れること。


「すみません、人を探しているので……」


「ならその人探し、俺も手伝うからさー」


 嘘をついて切り抜けようとしたけど、無理みたい。

 厄介ごとは懲り懲りだし、このままログアウトしようかな。購入したばかりの機体を見れないのは残念だけど。

 ナンパ男の手がこちらに伸びてきた、その時。


「探し人って俺のこと? いやー、すまんね。アカネちゃん。待たせちゃってごめん。あっちでゴリラも待ってるってさ。そろそろ行こうぜ」


 目の前に現れた青年は奥を指差し、そう言った。

 ……誰? この人。知らないよ。そもそも私はアカネという名前ではないし、ゴリラという人も知らない。

 でもナンパ男と目の前に現れた見知らぬ青年、どっちを取るかと聞かれれば……。


「あ、ありがとう……! もうゴリラも来てたんだ。それじゃあいこっか!」


「おい、俺が先に目を付けた女だぞ。邪魔すんなよ!」


 そう言い、ナンパ男が私の手を掴む。痛覚に制限が掛かっているとはいえ、明らかにその手にかかる力は過剰だったし、何より恐ろしかった。


「通報しました」


 と青年が一言。


「……は?」


「だから通報したって。たぶんGMが飛んでくるぞ」


 すると私たちの隣に光が集約し、1人の男性が現れた。ログイン時のプレイヤーエフェクトに似ているが、普通のプレイヤーでないことを彼の名前が物語っている。

 男の頭の上には黄色の文字で<GM>と表示されていた。


「プレイヤーネーム『オロギ』氏。先ほどハラスメント行為を確認しました。映像ログが残っているため、弁明しても時間の無駄であることを先にお伝えしておきます。今回は口頭による注意のみで済ませますが、再び同じことをされた場合は厳重な処罰を受ける可能性があることをご理解ください」


「アッハイ……」


「それでは良きBtHOライフを」


 そう言い残し、GMは光の粒子を残してログアウトした。

 オロギと呼ばれたナンパ男も、同じくしてログアウトする。たぶん逃げたんだ。

 今私が考えることはそこじゃない。困っていた、見知らぬ女性である私を助けてくれた彼に礼をすること。


「あの、ありがとう。さっきの男に急に話しかけられて、困ってて」


「一部だけど会話を聞いてたから大体の事情は察したよ。大変だったな。んじゃまた機会があれば」


 彼はそう言い残し、その場を離れようとする。


「ちょ、ちょっと待って! 私、何もお礼できてない!」


「いらんわ、そんなもん。俺がやったことってただGMを呼んだだけじゃん。何かしたいっていうなら運営にお礼のメールでも送っておいてくれ」


「でも……」


 彼は居心地悪そうに周りを見渡す。最初は私と話すのが嫌で、この場から離れたくて視線を逸らしたのかと思ったけど違うみたい。私たちに突き刺さる多数の男性の視線を感じ取ったんだ。


「あー……。それじゃちょっと暇つぶしに付き合ってくれよ。またGMを呼ぶ羽目になりたくないし」


「そうだね。あーあ、またナンパされちゃった」


「あんた余裕あるな。俺、ログアウトしてもいいか?」


「冗談だから待ってよ。お話しよう?」


 BtHOをやって良かったと思えた瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ