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第一章完! 学内パーティ注目のペア

 数日後。

 今日はついに来た学内パーティである。


 天井に巨大なシャングリラが輝く学園内のホールで、男女のカップルがダンスに興じていた。


 壁には絢爛豪華な装飾が施され、床には美しいカーペットが敷かれている。


 まるで映画の中に入ったかのような没入感を味わいながら、あたしは一人隅の方で壁の花と化していた。


「…………」


 ワイングラスに入ったぶどうジュースに口を付けながら、ぼーっとダンスを眺める。

 まあつまり、あたしは学内パーティまでにパートナーを見つけることが出来なかったわけである。


 いいけどね、別に。だってダンスとか苦手だし。ていうか運動全般苦手だし。


「ん、リリッサ嬢」


 このまま誰とも喋らずパーティを終えるのかなと思っていたが、唐突に声をかけられた。

 この声は……ヴィーネの兄、グレンだ。その真っ赤な髪がよく映えるブラックスーツを着ていると、目つきの悪さも相まって怖い人みたいでビビった。


「どうも、グレン様」

「どうした? こんなところで一人で……もしかして誰ともペアを組めなかったのか?」

「ええ、まあ、お察しの通りです」

「ふーん……」


 本当にぼっちだったとは思わなかったのだろう、気まずい雰囲気が流れる……。


「まあいいんですよ、元々ダンスにはあまり興味が無いし、すぐコケるので苦手なんです」

「そうか……」


 その時、気まずい空気を吹き飛ばすように、わぁっとあちこちから歓声が上がった。

 見れば、皆の視線の先には一組のペア。学内で最も注目度が高いと言っても過言ではない、お偉いさんの婚約者同士のペアである。


 アレックスとヴィーネが、ホールの中央でダンスを踊っていた。


 アレックスは白いスーツ、ヴィーネは黒いドレスを纏っていて、対照的なカラーがよく映えてて、素直に綺麗だな、なんて思った。


「二人、仲直りできてよかったですね」

「そうだな。……聞いたか? アレックスの奴、ヴィーネの今までの態度が全部照れ隠しからの行動だってことを理解した途端、『可愛すぎるでしょ……』って顔真っ赤にしてて思わず笑っちまったぜ」


 愛情が反転して憎悪になることがあるように、憎悪が反転して愛情になることがある。


 嫌っているってことは意識しているってことなのだ。であればきっかけさえあればこうなるだろうなぁとは思っていた。


 ヴィーネが、幸せそうな顔でアレックスとのダンスを楽しんでいる。

 ふふ、よかったね、ヴィーネ。


「――っ」


 そんなあたしの視線に気づいたのか、ヴィーネがこちらを向いた。

 ひらひらと手を振ると、嬉しそうにニコニコ笑顔を向けて来た。何あの子、可愛い。


 ダンスの曲がひと段落したところで、二人がこっちに近づいて来た。


「リリッサ!」

「ヴィーネ、アレックス様とのダンス、綺麗だったよ」


 素人目に見ても、息の合ったダンスで見ていて楽しかった。


「ありがと、これも全部貴女のおかげよ! 本当にありがとうね」


 ぎゅっと抱き締められたので、抱きしめ返す。

 っと、そこでアレックスが今気づいたかのように口を開いた。


「あれ? ところでリリッサは結局誰とペアを組んだんだい?」

「…………」


 閉口。

 すると察したのか、アレックスは苦笑いした。


「グレン、君は……運営側だっけか。参ったな、恩人に恥をかかせるわけには……」

「ああ、いいですよ、気にしないでください」


 パーティでペアを組めなかった人は、周りからはペアを組むような相手が居ない――つまりは非モテ、あるいはコミュ症だと認識される……まあ要するに、不名誉なことになるってことだ。


 でもあたしはそもそも庶民で友達が少ない、つまりこれ以上下がる評価も無いから気にしないのだ。


「お兄様、運営の仕事があるのでしょうが、少しで良いのでリリッサと一緒に踊っては如何でしょうか? ほら、後輩を助けると思って」

「えぇ……うーん、この後も忙しいからな……」


 ヴィーネがグレンに詰め寄って、そんな提案をし出した。

 いやいいっていいって、そんな気を使って貰わなくても……。


「ていうかお兄様、正直なところリリッサのことどう思います? 綺麗ですよね、綺麗って言ってください。お兄様とリリッサが結婚すればわたくしはリリッサと姉妹に――」

「落ち着け! 落ち着け妹!」


 なんかヴィーネの言葉が最後の方早口で聞き取れなかったが、兎に角グレンはヴィーネを諫めてくれたようだ。


「じゃあ、じゃあ……!」


 ヴィーネが、意を決したようにあたしの手を掴んだ。


「わたくしと踊りましょう、リリッサ!」

「え――?」


 いや、よく分からないけどこういうのって女同士で踊っていいものなの?

 周りを見渡しても、男女のペアばかりで同性のペアは居ない。奇異な目線で見られてしまうのでは?


「一曲だけ――アレックスもいいかな? わたくしがリリッサと踊っても」

「ああ、いいんじゃないかな? ダンスは同性で踊ったら駄目なんて規則は無いし」


 無いの? じゃあ、まあ、一曲だけならいいかな?

 ホールに、オーケストラの生演奏が流れ出す。新しい曲が始まったようだ。


 あたしはヴィーネの手を取り、踊りだす。

 そして開始五秒で、足がもつれた。


「あっ」

「あっ」


 バランスが取れず、転びそうになったところをヴィーネに支えられたが腕力が足りず。

 二人で仲良く床に転がることになってしまった。


 ――その拍子に、あたしの唇が、不意にヴィーネの頬に触れた。


「いつつ……ご、ごめんなさいヴィーネ」

「い、いえ……」

「大丈夫? 怪我はない?」


 上体を起こして、ヴィーネを見る。

 彼女の顔は、ゆでだこのように真っ赤になっていた。え? 怒ってる?


「だ、大丈夫…………ではないかも」

「あ、あ~、ごめん! 本当にごめんね! 運動音痴で!」

「ああ、いや、大丈夫、大丈夫だから! 怒ってないわよ?」


 よかった、許してもらえたようだ……。

 折角仲良くなったのに、こんなことで仲たがいするのは嫌だもんね。


 その後は、ヴィーネが上手くフォローしてくれたおかげで一曲踊り切れた。

 徹頭徹尾ヴィーネの頬が赤かったのが気になるけど、多分あたしがあまりにもダンスが下手だったからいつ失敗するかヒヤヒヤしていたせいだろう。


「やっぱあたし、ダンスは見ている方が好きだわ……」


 壁の傍で一人(グレンは運営の仕事に戻った)、汗を拭いながらダンスホールで踊るアレックスとヴィーネの姿を見ながら呟く。


 さて、と。

 あたしの数少ないこのゲームの記憶の一つに、アレックスとヴィーネがくっつくエンドで貰える激つよカード――『ガゼルゼウス』があったと思うんだけど、あれはまだ貰えないのかな?


 キョロキョロと辺りを見渡すも、そういうイベントが発生する気配は無い。ゲームだと確か『ガゼルゼウス』のカードを貰った! っていうウィンドウが表示されるだけでどういう風に手に入ったかは分かんないんだよね。


 突然所持品に増えてたりしないし……やっぱエンディング――つまりは三年目の卒業式を迎えないと貰えないのか? それともゲームとは違ってクリア特典とか無いのか。


 まあ、いいか。『ガゼルゼウス』があったらこの先楽だったんだけど。


 無いなら無いで、何とかするさ。"学園生活三年目に訪れる筈の、世界の危機"くらい何とかしてみせる。


「リリッサー! 今度は三人で踊りましょ!」


 ヴィーネがそんなことを言いながら手を振っている。

 あたしはそれは酷いことになりそうだなと苦笑しながら、二人の元へ向かうのであった。


一区切りです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あははは! 恋路はサクサク進みます! 軽いGLかもしれませんが、提供されたパン粉はまだおいしいので、何でも食べます。 兄と結婚して姉妹になるというちょっとした妄想が好きです。 一緒に人生…
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