決着! 幸せの龍が紡ぐ絆
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五年前。
まだ、アレックスがヴィーネのことを嫌いでは無かったころ。
「プレゼント?」
「ああ、君にピッタリのカードを見つけたんだ」
ヴィーネの十一歳の誕生日に、アレックスは彼女に一枚のカードを贈った。
カードの名前は『幸せの龍アイニーヘッツ』。王子の格好をした男と、尾と翼の生えた竜人らしき女性が結婚する風景を描いたカードだ。
「このカードが……わたくしにピッタリだと?」
「ああ、種族もドラゴンだし、効果だって……」
「これはつまり……わたくしが竜のように恐ろしい花嫁だと言いたいのですか?」
本当は、何だって嬉しかった。王子から贈られるものなら――王子が自分のことを想って、選んでくれたものだったら、何でも。
でも、ヴィーネは知らない。嬉しいという感情を、前面に吐き出して喜ぶ術を知らなかった。
素直に喜ぶことが出来なかった。
だからついつい悪態を吐いてしまい、そして。
「え、えっと、ご、ごめん、そんなつもりは……」
「まあ、受け取ってあげる。デッキに入れるかは分かんないけどね」
何をあげても喜んでもらえず、挙句の果てに悪態を吐かれるばかりで。
アレックスのヴィーネへの心境は、月日を重ねることに悪くなっていった。
でも――。
「……デッキに入れて傷つくのも嫌だし、部屋に飾っておこうかしら」
一人、部屋で先ほど貰ったカードを飾るヴィーネ。
鼻歌交じりに機嫌よく、婚約者から貰ったカードを眺める彼女の、本性を知る者はこの時点では存在しない。
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「わたくしのターン、ドロー!」
ヴィーネが恐らく最後のターンになるであろうドローをする。
こうして外野で見守ってばかりで助言の一つも出来ないのは歯がゆいが、前世でも大会中は仲間にアドバイスとか出来なかったわけだし、仕方ない。
ヴィーネが引いたカードは……お? ここであれを引くかぁ、流石持ってるなぁ。
「あのカードは……確か……」
ヴィーネの兄、グレンも、そしてヴィーネ自身も驚きの表情で今引いたカードを見ている。
あのカード……『幸せの龍アイニーヘッツ』は、ヴィーネの部屋に飾られていたカードだ。
それをあたしが完全に独断でこっそり入れておいた。何故かって? それは勿論あのカードが二人の思い出のカードであり、仲直りに必要な最後のピース――なんて設定があったかどうかは記憶に無いが、ただ強入れ得カードだからである。
あのカードをデッキに入れてないなんて舐めプも良いところだ。実際、この盤面もあのアイニーヘッツなら返すことが出来る。
あ、なんかヴィーネがこっち向いて(あっちからは見えない筈だけど)顔真っ赤にして怒ってる。何? もしかしたら触っちゃ駄目なカードだった? ごめんね、でもカードは飾るものじゃなくてプレイするものだから……。
「っ……仕方ない、『幸せの龍アイニーヘッツ』を召喚!」
「そのカードは……!?」
アレックスが驚愕の表情を浮かべる。
ふふふ、そりゃ完全に制圧したと思った盤面を返されるのびっくりするよね、分かるよ。
「まだ持っていたのか……アイニーヘッツ。てっきり捨てたものだと思っていたよ」
「だ、だって、その……だって……」
もじもじと、頬を真っ赤に染めながら、ヴィーネは勇気を振り絞って答える。
「貴方に、貰ったカードだから……」
「え?」
「――っ! い、今の無し! 無し無し! 偶然! 偶然クローゼットの下に落ちてたのを偶然昨日見つけまして! はい、効果! 効果発動!」
ツンデレを発揮しながら、ヴィーネがアイニーヘッツの効果を発動させる。
アイニーヘッツの効果は選択式。二つある効果のどちらか一つを選ぶことが出来る汎用性の高い能力だ。
一つは、『永遠の愛アイニーヘッツ』に変化してATKを下げDEFを上げ、さらにライフを回復する防御形態になる能力。
そしてもう一つ、今発動するべき能力の方で、『別れの時アイニーヘッツ』に変化してATKを上げDEFを下げ、さらに相手のモンスター全てを破壊する能力。
『別れの時アイニーヘッツ』になれば、アレックスの盤面を一掃できる。デメリットとしてターンエンド時にアイニーヘッツは破壊されてしまうが、現状選択の余地もない、圧倒的に一択な場面。
しかし。
「わ、わたくしは……幸せの龍アイニーヘッツを、永遠の愛アイニーヘッツに変化!」
「えっ」
カードの絵柄が切り替わり、立体映像に映る花嫁姿の竜人が突如現れた王子のような男にお姫様抱っこされているという立体映像に変わった。
ヴィーネのライフが回復して、七に戻る。しかし、回復したところで次のターン王子のモンスター全員が殴ってきたら守り切れず負けだ。
「……どういうつもりだ?」
アレックスが、困惑の表情でヴィーネを見る。
ヴィーネは、しばらく黙りこくった後、静かにボロボロと大粒の涙を零し始めた。
「だって……だって……! 別れたくないです! アレックス、貴方と、別れたくないんです……!」
勝負は終わった。もうオーブも無いヴィーネにこれ以上の行動は無い。盤面だけでライフを削り切れることが確定している以上、決着は着いているも同然だ。
ヴィーネがデッキに手を置いた。それは降参の証明である。
決闘は終わり、魔力の膜は消え去った。
あたしはヴィーネに駆け寄ると、ヴィーネはあたしの胸に顔を埋めた。
「ヴィーネ、あなたは……」
彼女の頭を撫でながら、あたしは言う。
「例えそれがただのカード名だと分かっていてもプレイできないくらい、『別れの時』が来てほしくなかったのね……」
こくり、とヴィーネはあたしの胸に顔を埋めながら頷く。
伝わったかな、この気持ち。ヴィーネの、アレックスに対する深い愛。
「ヴィーネ……」
アレックスは、彼女の名前を呟いて。
でも、何を言ったらいいか分からないとばかりに、眉間に皴を寄せて俯いた。
気まずい空気が流れる中……最初に口を開いたのはグレンだった。
「……一旦解散としよう」
無表情のまま、グレンは言う。
「……ヴィーネも泣いてちゃ、マトモに話せないだろう。後日また時間を作って、ゆっくり話し合おう。それでいいな? アレックス」
「あ、ああ……」
「……よし、じゃあ、俺らは先に帰るから、妹は頼んだよリリッサ嬢」
頷く。
実際、こんな状態じゃあヴィーネはマトモな思考も会話も出来ないだろう。
一度落ち着いてから、改めて話し合いの場を設けるべきだ。
アレックスとグレンが図書室を出て行って、図書室にはヴィーネの鼻をすする音だけが響く。
「わたくし……負けてしまいました……」
しばらくすると、ようやく泣き止んだヴィーネが口を開いた。
涙と鼻水であたしの制服がとんでもないことになってる……。
「折角貴女が練習にも付き合ってくれたのに……わたくし、わたくしは……婚約を破棄されてしまう……」
「だいじょーぶ」
ぎゅっと、ヴィーネを抱きしめる。
安心させるように背中を撫でながら、言葉を紡ぐ。
「ヴィーネの気持ちは、ちゃんと王子に伝わったと思うよ」




