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早速シナリオブレイク! 悪役令嬢とお友達になっちゃいました!?

~~~~~で囲われた部分は、本来の乙女ゲームのストーリーです。

「…………」

「…………」


 決闘が終わって、あたしたちを包んでいた魔力の膜は溶けるように消えて行った。

 楽しかった……! やっぱカードゲームは最高だ……欲を言えば自分が組んだデッキで戦いたかったが……。


「……何で」

「ん?」

「何でわたくしが負けるの!? それも、わたくしの二軍のデッキを使った初心者に!」


 おお、ゲームと同じ台詞だ……と思う、多分、うろ覚え。

 確かこの台詞に対する主人公の答えは……何だっけ。まあいいや。


「…………」


 あたしは何も言わない。負けて悔しがっている人に、勝者がかける言葉なんて一つも無い。


 しばらく黙っていると、ヴィーネは悔しさを滲ませながらも、それを吐き出すように大きなため息を一つ吐いて、口を開いた。


「……いいわ、わたくしの負けです。パーティのアレックスのペアは貴方が務めなさい」

「え、嫌だ」


 思わず反射的に答えていた。やべ、これって不敬罪に当たったりするのかな?


 でもだって、今世の記憶的にも前世の記憶的にもアレックスってあれだろ? やたらキラキラした如何にも王子様~的な男でしょ?


 そういうキラキラ男子と付き合ってお姫様気分に浸れるのは十代まででしょ……いや肉体年齢は十代なんだけども、中身は二十台後半のおばさんなんだよね……。


「……は?」

「最初から言ってるじゃないですか、アレックス……さまのペアはお譲りしますって……あたしなんかより、ヴィーネ……さまの方がアレックス様にお似合いですし」

「え、いや、その……」


 まるで時が止まったかのように、ヴィーネはしばらく固まって、そして数秒後、状況をようやく理解できたのか胸に手を当てて笑顔で口を開いた。


「そーよね! その通りよ! 庶民のくせによく分かっているじゃない!」


 あたしがライバルに成りえないことをようやく理解してくれたらしい。『リリッサ』ならもしかしたらゲームの物語のように、最後にアレックスと結ばれるエンドがあるのかもしれないが、『佐々木凛』としてはアレックスを攻略する気はありません。


 そんなことよりカードゲームやろうカードゲーム。


「分かっていただけましたか……アレックス様は、お優しいのであたしのような庶民にもお情けをかけてくれていますが、そこに恋慕の感情はございません」

「成程ね……アレックスならやりかねないわ、あの人、昔からお優しい方だもの」

「…………」


 まあ多分、向こうはあたしに惚れてるけどな! 乙女ゲーム的に考えて!

 でも確かアレックスルートを進まなければ、アレックスはヴィーネと結婚した筈だ、これ以上アレックスの好感度を稼がないようにすれば問題無し……。


「っと、そうなると、貴女が決闘に勝ったことによる報酬が無くなってしまうわね……」

「であれば……この貸して頂いたウィザードカード……ヴィーネ様の予備デッキを頂戴出来ないでしょうか?」


 このカードゲームの勝ち負けで人生が決まるいかれた乙女ゲームの世界で生き抜くためにはデッキが必要だ。

 勇者デッキは初期デッキだけあって拡張性も高く、明確な弱点も少ない良いデッキだ、是非手に入れておきたい。


「まあそれくらいなら構わないわよ、どうせあまりカードで練習用に組んだデッキだし」

「ありがとうございます。あとこれは、個人的なお願いなのですが……」


 ゲーム的に考えても、このデッキは貰えるとは思っていた。

 だからどっちかというと、次のお願いが本命だ。


「あの……知っての通りあたし友達が少なくて……その……ヴィーネ様に、友達になって頂けないでしょうか――?」


 それで時々、カードゲームで一緒に遊んでくれませんか?


 もじもじと、照れくさそうに言う。

 友達になってくれ、なんてこの歳になってから言う日が来ると思わなかったわ。


「そ、そ、そ――」


 ヴィーネの顔が、みるみるうちに紅潮していく。

 しまった、怒らせてしまったか? 流石に不敬だったか、ヴィーネは両手で顔を抑えた状態で、強い口調で言葉を返す。


「そうやってわたくしを誑かすつもりね!? ざ、残念だったわね! 公爵令嬢たるわたくしに友人など不要! まあでも!? 決闘で負けたから仕方ないわねー! ほんっとーに仕方ないわねー!」


 ああそういえば、ヴィーネは公爵令嬢、しかも王子の婚約者かつツンデレ気質ということで、取り巻きの人間こそ多くても友達と呼べる人間はいないんだっけ……。


 あたしはヴィーネの傍に寄って、ふっと微笑んだ。


「じゃあ早速カードゲームしましょう! 十先(先に十回勝った方の勝ち)でいいですか?」

「あっ、この子気軽に決闘する相手が欲しいだけね!?」


 お目目をキラキラさせてそう告げると、ヴィーネは目をまん丸にしながら呆れたようにそうツッコんだ。

 大きく溜息を吐いた後、ヴィーネは苦笑する。


「そんなに気に入ったの? ウィザードカード」

「はい!」


 演出、カードイラスト、ゲームバランス、全てが良い感じだ。特に演出が気に入った、立体映像なんて、前世では夢のまた夢だったのに。魔法があるこの世界ならではの演出はあたしの心をがっしりと掴んだのだった。


「仕方ないわね、あたしも家のメイドと練習するの飽きてきてたところだし、付き合ってあげるわ」

「ありがとうございます! ヴィーネ様!」

「あ、あと、それと友達、になったんだから様付けは要らないから」

「――っ、うん! よろしくね、ヴィーネ!」


 にこやかな笑顔で、握手を交わす。

 こうして今日、リリッサ=アークライトとしての第二の生における生まれて初めての女友達が出来たのであった。


~~~~~


「何でわたくしが負けるの!? それも、わたくしの二軍のデッキを使った初心者に!」


 敗北を受け入れられず、喚くヴィーネ様。

 程よく戦って負けようと思っていた決闘なのに、何故か勝ってしまいました。


 どうして……? そんなにもヴィーネ様が弱い? わたしに隠された才能があった? ……いやどちらも違う。

 わたしは、心の奥底では負けたくなかったのでしょう。


 王子と――アレックス様と、パーティのペアを組むことを、心の何処かでは望んでいたのかもしれません。


「こ、これで……」


 敗北し、項垂れているヴィーネ様に、わたしは声をかけます。


「パーティでアレックス様とペアを組むのは、わたしということになります……よね?」

「……っ!」


 ヴィーネ様が物凄い形相でこちらを睨んできました。

 わたしのことを、完全に『敵』だと認識したような目つきです。


「好きにすればいいじゃない! でも、アレックスの婚約者はわたくしよ!」


 机をバアン! と叩いて、ヴィーネ様は踵を返し図書室を出ていきました。


「あ……」


 わたしの手元には、貸して頂いたデッキが残されています。

 返そうと後を追ったけれど、もう既にヴィーネ様の姿は無く、何処かに行ってしまわれたようです。


 どうしましょう。完全にヴィーネ様が敵に回ってしまいました。これからの学園生活が不穏に包まれます。


「わたしは――」


 かけるべき言葉を、間違えたのでしょうか。

 わたしはヴィーネ様に、何と声をかけたらよかったのでしょうか。


 後悔先に立たず、わたしは貸して頂いたデッキを懐に仕舞って、図書室を離れました。


~~~~~


 アルゴニア魔法学園は門限も消灯時間も早い。

 夜七時の晩餐までには寮に帰ってこなければならず、その後十時までに宿題を終わらせ消灯しなければならないのだ。


 なのでまあ、落ち着いて一人で考え事出来る時間帯は限られている。

 現在夜の八時。あたしは宿題を終わらせ、激動の一日だった今日を振り返りながら考え事に浸っていた。


(冷静に考えてみよう)

(本当にこの世界はあの乙女ゲーム――『デュエルファンタジア』の世界なのか)


 リリッサ=アークライト、ヴィーネ=ルネ、そしてアレックス=サンダーソニア。

 それぞれ、主人公、悪役令嬢、王子様の名前はゲームと一致しているし、大事なことはカードゲームによる決闘で決めるというとち狂った設定も一致している。


 ほぼ間違いなく、世界観のベースにはあの乙女ゲームがあるだろう。

 しかしあくまでも類似した世界なのか、それともゲームの世界なのかは審議の余地がある。


 何故ならステータス画面を開けないし、選択肢というものも存在しないからだ。


 少なくとも『わたし』の記憶にはそういったものが存在したという記憶はない。


「死んだときの記憶もあるし……やっぱしあたしは死んで、デュエルファンタジアの世界観に類似した世界に転生した――って考えるのが良いのかな」


 よく分からん。まあこの件に関してはもう考えるのをやめるか。

 大事なのは、今後どうやって生きていくかだ。


 ゲームにおけるハッピーエンドを目指すのが最善なんだろうけど、残念ながらその手の攻略知識は完全に頭から抜け落ちてしまっている。

 あたしはどうしたい? 前世では縁の無かった幸せな結婚生活を満喫し、孫に囲まれて老衰で死にたい?


 なんか違うなぁ、そんな欲求まるで無い。


「あ、そうだ……」


 ふと思い出して、鞄から、今日貰ったデッキと先ほど買った無色透明のスリーブを取り出す。

 デッキはスリーブに入れなきゃね、購買で探してみたら無色透明のやつだけ売ってたから買っておいたのだ。


 こっちの世界の人はあんましカードをスリーブに入れたりしないのかな? まあカードゲームアニメとかでもキャラクターはカードをスリーブに入れたりしてないことが多いからそういうものなのかもしれない。


 カードをスリーブに入れながら、この世界で何がしたいか考えよう。

 一枚一枚、丁寧な所作でカードをスリーブに入れていく。


「……ん? このカードとこのカード、よく見たらシナジーしてるな……」


 しかし、カードを触りながらの考え事は悪手だった。

 カードを触っていると、思考がそっちに寄って行ってしまう。


 この世界で何をしたいかとか一ミリも考えることなく、あたしは気付いたらデッキの一人回しを始めていた。


 ドロー、オーブチャージ、召喚。


 ああくそう、仮想敵用のデッキがもう一個欲しいな。


 ネットでデッキレシピを検索したい……って、パソコンなんてあるわけないか。


 待てよ? パソコンが無いってことは、前世みたく活躍したデッキが爆速で広がるなんて現象が無いし、初見殺しの有用性が上がるなあ。


「てことは……あのカードとあのカードが手に入れば……」

「リリッサ=アークライト! いつまで起きているの!? もう消灯時間は過ぎてますよ!」

「んにゃ!?」


 寮長のおばさんに扉をゴンゴンを叩かれて、思わずびくっと肩が震える。

 時計を見ると、既に十時を余裕で過ぎていた。


 え? 何? もうそんな時間!?


「すすす、すいません、もう寝ます!」


 急いで灯りを消して、ベッドに潜り込む。

 ああ……結局この世界でどう生きていくか、何も考え着かなかった……時間を忘れるほど、夢中になってしまうこの感覚――。


(懐かしいな)


 前世では、隙あらば自分のデッキを調整していた。

 酒を飲みながらスリーブの入れ替え作業をしたり、対戦動画を見て研究したり、大会で仲間たちと切磋琢磨し合ったり。


 そんな人生があたしにとっては幸せで、一番大好きな時間だった。


「――あたしのデッキ、お母さん捨てないで取っておいてくれてるかなぁ……」


 不意に、前世の両親のことを思い出して泣きたくなる。

 親より先に死ぬなんて、とんでもない親不孝をしてしまったものだ。


 ネガティブな思考を振り払うように頭を振り、目を閉じる。


 眠ろうとしても、浮かんでくるのはカードゲームのことばかり。


 うん。やっぱりそうだな。あたしはあたしらしく生きよう。


 カードゲームに殉じよう。


 この世界では『決闘で強い』っていうのは大きなアドバンテージになる筈だ。

 ゲームでも要所要所で挟まるカードゲームに勝利しないとハッピーエンドを迎えられなかった気がするし、カードゲームに没頭することは悪いことではないだろう。


 明日は早速、デッキの強化のために動き出す。

 そう決心し、あたしは今度こそ本格的に眠りにつくのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 私はカード ゲームの大ファンではありませんが、戦略性、狡猾さ、そして最も強力な攻撃を持っているだけでは勝てないという要素は楽しんでいます。 私は各デッキの利点、なぜそのように作られたのか、…
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