一回戦! 無限ループで初見殺し!
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「私の名前は《ウィッチ》。素敵な魔力のお嬢さん、貴方の名前は?」
「お、おーら?」
街で出会った不思議な雰囲気のお姉さんは、そう言いながらわたしのことを虹色の瞳で覗き込むように見てきます。
ウィッチなんていうあからさまな偽名を使っているそのお姉さんは、「ああ」と頷きました。
「私には人の魔力の色が見えるのさ、そんでその色や形によって、ウィザードカードの大まかな強さを測ることが出来るのさ」
自身の虹色の瞳を指差しながら、《ウィッチ》さんはそんなことを言います。
魔眼、というものでしょうか。学校の授業で習ったことがあります。
先天的な才能の一種で、魔眼の種類によって様々な特殊能力が使えるとのことです。自分とは縁遠い話だと思っていましたが、まさか魔眼を持った人に出会えるなんて……。
「わ、わたしはリリッサ。リリッサ=アークライトです。あ、あの、わたしウィザードカードは始めたばかりで……そんな強そうなオーラは出ていないと思うのですが……」
「ははは、そうだね、強そうにはとても見えない、弱弱しい大きさだ。……けど、面白い形をしている。多分これは……天運かな?」
「……?」
「うん? ていうかリリッサ=アークライト? 何処かで聞いたような……あっ、ああ! 君がアレか!」
「? な、なんですか?」
「いやいや、何でもないナンデモナイヨ。弟からチラッと君について話を聞いたことがあるだけさ」
よく分かりませんが、この方はわたしのことを知っているようです。
「……うん、これも何かの縁だ。リリッサ、今暇かい? 良かったらウィザードカードについて色々教えてあげようか?」
「え? いいんですか?」
ヴィーネ様に勝って以来、今後も必要だと思って始めたウィザードカードだけど、分からないことが多くて困っていたところでした。
渡りに船とはこのことでしょうか。
「いいのよ、私こう見えても結構強いんだから。天運の持ち主に、プレイングが備わったらどうなるのか見てみたいし」
「天運……っていうのはよく分かりませんが、助かります。誰にも相談できなくて困ってました……」
「あっはっは、人の縁ってのは分からないものだねぇ。じゃあこれ、私の大学の研究室の住所。分からないことがあったら此処に来て」
▼謎のお姉さん、《ウィッチ》の研究室に遊びに行けるようになった!
▼カードゲームで中々勝てない! という方は彼女の研究室を訪ねに行ってみよう!
「あ、あの、ありがとうございます!」
「うん、良いってことよ。それじゃまたねー!」
手を振って、《ウィッチ》さんと別れます。
また会いに行こう……!
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『一回戦前半の組み合わせを発表します――Aテーブル、チュルク=ケイト様vsフルール=ドス様』
控室に、というか会場全域に組み合わせ発表のアナウンスが流れる。
名前が呼ばれたらテーブルのあるあの広いところに向かうシステムだ。それまでは公平性の観点から、選手は控室のあるエリアから出ることは出来ない。
控室と言うとあたしはテレビでよく見る芸能人とかが控えている、シンプルな装飾で机と椅子と、給湯器や冷蔵庫、時計くらいしか物がない部屋が思い浮かぶのだが、流石は貴族主催の大会と言うべきか。
赤い絨毯に、煌びやかな壁紙、幾つもあるテーブルには白いテーブルクロスがかけられ、各種飲み物や軽食がパーティ会場のように立ち並んでいた。
しかし食べ物に手を付ける人は多くない。皆緊張しているのだろう、ヴィーネとグレンも、表情が固い。
ざっと見、学生はあたしたちくらいなのかな、珍しいのか大人たちがちらちら見てくるし。
人数は十二人。案外少ない。
あ、《ウィッチ》さん発見。部屋の隅で本を読んでいる。挨拶しに行こうかちょっと迷ったけど、やめておいた。
今は敵同士だ。
『Cテーブル、リリッサ=アークライト様vsロンギヌス=オルターエゴ様』
「お、呼ばれた」
名前を呼ばれて立ち上がる。同タイミングで立ち上がった金髪のイケオジがあたしの対戦相手かな?
「頑張ってね、リリッサ」
「お前なら大丈夫さ」
ヴィーネとグレンから激励の言葉を貰いながら、控室を出る。
「……君、学生か?」
無駄に広い廊下を歩いていると、あたしのちょっと前を歩く対戦相手のイケオジに話しかけられた。
「え? はい、そうですよ」
「そうか、珍しいな……」
やっぱ珍しいのか。この世界の学生はあんま大会出ないのかな。
それとも、単純に……。
「負けても泣いてくれるなよ、ガキをあやすのは苦手なんだ」
単純に、学生と大人の間でかなりの力量差があるのか。
もう勝利を確信しているかのような台詞に、あたしは眉をピクリと動かす。
カードゲームは、資産と資金のゲーム――すなわちペイトゥウィンの要素がある。
格安カードしか買えない小学生と、会社から給料をもらっている社会人ではスタートラインに天と地の差があるように。
金だけが全てとは言わないが、金がある方が有利なのは確かなことなのだ。
そうなると、学生と大人の間には明確に差があるということになる。例え貴族の子と言えども親のように好きにお金を動かせるわけではない。
尤も、王族の子のように例外は居るが。
「それじゃあ――」
四ターン目。
あたしは、笑顔でカードを繰る。
凄い、大会の決闘凄い。ヴィーネと決闘した時は、カードの上に出現した立体映像に感動したものだけど、大会の立体映像は格が違う。
モンスターのリアルな大きさが反映されているようで、あたしの背後に巨大なモンスターが出現してくれるのだ。
まるでモンスターテイマーにでもなった気分である。
戦いの会場が広かったのはこれが理由だったのかと納得する。こんな巨大なモンスターが火を吹いたり突撃したりするのだから、テーブルが三つしかなくて仕方ないよね。
まあ、それはそれとして。
「今言った手順を無限回繰り返して無限のATKで攻撃をします」
「はあああああああああああああ!?」
会場一杯に膨張した【無限ビルドアップ】の核たるモンスター――『ビルドアップドラゴン』がそのぶっとい腕でイケオジにラッシュをかける。
ループさえ決まってしまえば対抗手段は早々無い。イケオジのライフは瞬く間に削り切られ、勝敗は決した。
いやー流石はユーザーが産んだ運営想定外の最速四ターン確殺ループの【無限ビルドアップ】だぜ。
大人にも通用するデッキパワーだ。
会場もざわめいている。前世だったらネットに晒されて一発で【無限ビルドアップ】が環境に蔓延するなこれは。
「……な、なんだあのコンボは……」
「…………」
学生に負けたからか、目に見えて落ち込んでいるイケオジ。
当然だがかける言葉は無い。敗者にかける勝者の言葉なんて一文字も無い。
あたしは黙って一礼すると、踵を返して控室へ向かった。
この大会はスイスドローではなくトーナメント。このイケオジはこれで敗退だ。
「リリッサ! 戻ってきたってことは……勝ったのね?!」
控室に戻ると、ヴィーネに抱き締められた。
一回戦勝っただけで大袈裟だろう。
『一回戦後半の組み合わせを発表します――』
しばらく待っていると、一回戦前半の最後の試合が終わったのか、アナウンスが始まった。
当然だがヴィーネとグレンの名前が呼ばれる。
ヴィーネの対戦相手はグングニル=シルシとかいうちょい太り気味のおっさん。そしてグレンの対戦相手は――。
『グレン=ルネ様vsウィッチ様』
アナウンスが終わる。グレンと《ウィッチ》さんが同時に立ち上がった。