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《ウィッチ》登場! 虹色の瞳をしたライバル

 楽しみ過ぎて、早く着き過ぎた――あたしは一人、大会会場であるどでかい屋敷の前に佇みながら、上る朝日を見上げていた。


 今日は大会当日。屋敷の前に立てられた『ラーヴァ家主催ウィザードカード大会』の立札を見て、この屋敷が間違いなくあたしたちが出場する大会の会場であることを確認した後、再び天を仰ぎ見る。


 まだ開催式まで三時間ある、どうしよう。


「ちょっとそこなお嬢さん」

「?」


 途方に暮れているところに、声を掛けられて振り向く。

 そこに居たのは、不思議な瞳の色をしたお姉さんだった。


 混ざりかけの絵具のように揺らめく虹色の瞳、理知的な雰囲気を醸し出す眼鏡、先端が切りそろえられた真っ黒なロングヘアー。


 綺麗で、妖しい、魔女のようなお姉さんだ。何処かで見たことあるような……。


「お嬢さんも大会出場者?」

「あ、はい、楽しみで早く着き過ぎてしまいました……」

「あっはっは! 成程ね、そりゃ良い魔力オーラをしている筈だよ、大好きなんだね、このカードゲームが」


 私と同じだ、と言って、お姉さんは屋敷に入っていった。


 え? もう入っていいの? と戸惑っていると、お姉さんが入って来な、とばかりに指をくいっとしたのでまあいいかと着いていく。


 お姉さんに誘われるがまま屋敷内を歩く。途中受付っぽいカウンターがあったが、お姉さんはそれをスルーして『←観客席』とこの世界の言葉で書かれた案内板に従ってそちらに歩いていった。


「おお、おおおお……」


 観客席からは、当然だが試合会場が一望できる。

 広い、体育館のような空間には絢爛豪華な絨毯が敷き詰められており、何やら魔術的な装飾が施されたテーブルが三つ、広く間を取って等間隔で置かれていた。


 テーブルが少なくないか? この世界の大会は、前世の大会と違ってスポーツのようなエンターテインメント性もあるからかな?


 視聴者がより多くの試合を楽しめるようにしてあるのだろう。

 前世との文化の違いを感じながら会場を観客席から眺めていると、お姉さんが「こっちだよ」と手招きしてきた。


「これは……?」

「観客が食事しながらでも試合を観戦できるように、って作られた席よ、座って」


 観客席の奥に、白いテーブルクロスがかけられたテーブルと椅子があった。


 お姉さんと対面するように座ると、お姉さんがデッキを取り出して机の上に置いた。

 ああ成程、そういうことね。


「お互い大会が始まるまで暇でしょう? ちょっと対戦しましょうよ」

「勿論、お受けしましょう」


 二つ返事で答えを返す。

 前世でも大会が始まるギリギリまで仲間とデッキを回して最終調整していたものだ。

 【無限ビルドアップ】デッキを取り出す。ルネ兄妹の協力でプロキシ無しで組めたのだ。


「私の名前は《ウィッチ》。素敵な魔力オーラのお嬢さん、貴方の名前は?」

「佐々……じゃなくて、リリッサ=アークライト。よろしくお願いします、《ウィッチ》さん」


 お互いにデッキをカット&シャッフルしながら、自己紹介。

 魔力オーラ? なんか、そんな感じのことを言うキャラがゲームにも居たような……。


 うーむ、憶えてない。まあいいか。

 そして対戦が始まる。相手のデッキはどうやら【錬金術師アルケミスト】デッキ。錬金カウンターという特殊なリソースを操って戦う上級者向けのシリーズである。


 うん、【錬金術師】デッキ対面は決闘部で何度もやったことがあるし、自分で回したこともある。突飛な構築じゃない限り対応出来るだろう。


「それじゃあ……今の手順を無限回繰り返して無限のATKで攻撃します」

「…………」


 一戦目、まず勝利。

 あれ、なんかお姉さんがポカンとしてる。


「お、驚いたな……何? そのループ。私がこうもあっさり負けるなんて……いや、そんなことより……」


 お姉さんがあたしのデッキを指差しながら、言う。


「大会前に、手の内を晒して良かったの?」

「? 別にいいですけど?」


 前世の大会じゃあ、手の内なんて晒し合った状態で行われるのが普通だ。

 何せ、インターネットに少し潜れば最強コンボも凶悪シナジーも、最適な構築も全て手に入る時代だ。


 時折完全オリジナルの変態コンボにやられることはあったが……基本的に、現代のカードゲームはお互いにやりたいことが分かっている状態から始まる。


 それに何より、【無限ビルドアップ】は分かっているからって簡単に止められる類のコンボではないし、まだ使っていないルートもある。


「それより、二回戦目をやりましょう、まだまだ大会開催まで時間はありますし」

「あ、ああ……そうだね」


 その後、二時間ほど《ウィッチ》さんと対戦をしていたら、段々と人が増えて来た。

 観客席にもチラホラと人がやってきて、テーブルを占領しているのも悪いし、そろそろヴィーネたちも来るだろうしってことで解散する。


 あー、楽しかった。結果的に早く着き過ぎて正解だったな。


「じゃあ《ウィッチ》さん、対戦ありがとうございました! 大会で当たったらよろしくお願いしますね!」

「ああ、こちらこそ」


 《ウィッチ》さんは頷いて、ギラリと目を輝かせて言う。


「大会では、『本気』で行く。私と当たるまで負けてくれるなよ? 我がライバル」


 どうやら、あたしは《ウィッチ》さんにライバル認定されたようだ。

 戦績的にはあたしがかなり勝っていたんだけど、彼女は本気では無かったのか……。


 滾るね。


「あ、リリッサ。観客席に居たの?」

「よう、今日は頑張ろうな」


 受付前に戻ってくると、既にヴィーネとグレンが待っていた。

 二人に挨拶して、受付を済ませる。選手にはどうやら控室が用意されているらしく、三人で廊下を歩く。


「ねえリリッサ、大会が始まる前にちょっとデッキ回したいんだけど、付き合ってくれないかしら」

「ああ、別にいいけどあたしさっき散々回したから、グレンと回したら?」

「え? さっき? 誰と?」

「《ウィッチ》って人と」


 今更だけど《ウィッチ》ってハンドルネームだよな。

 ん? どうしたの二人とも、変な顔して……。


「ああ、安心して、ちゃんと勝ち越したから。今日も【無限ビルドアップ】の調子は絶好調だったよ」

「「何してんだおまえぇ!」」


 そうしてあたしは兄妹の息の合ったツッコミからのお説教を受けることになったのであった……。解せぬ。

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