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強くなりたい理由は好きだから、それ以外無い!

「グレン様、今日はお呼び出しに応じて頂きありがとうございます」


 とりあえず王子の性欲の件については置いておいて(思考放棄ともいう)、放課後。


 決闘場の一角で、あたしはグレンを勧誘していた。

 ヴィーネにアポ取りを頼んだら、この場所をグレンが指定してきたそうだ。


 決闘場。何だかんだ初めて入る気がする。


 とても広い空間に、客席らしき椅子に囲まれた決闘用机が何個も置いてある、カードショップとかとはまた違った雰囲気を持つ空間だ。


 この世界の人々にとって、カードゲームは遊びではなく戦いだからだろうか。

 何処かピリピリとした空気感を感じる……。


「前も言った通り様付けは無しでいいぞ?」

「いえ、その……先輩ですし」


 そうやって距離を詰めたら乙女ゲーム補正とかで惚れられても困るし。


「それで? 決闘部、だったっけか。変わったことしようとしてるな」

「そうですか? むしろ決闘のために練習する集まりみたいなのが無いことが驚きだったんですが」

「ふぅん、初心者はそう考えちゃうかもな――っとちょっと待て、やっぱり先にツッコんでいいか?」

「…………?」

「ヴィーネ、何で隠れてるんだ? お前も話に混ざれよ」


 あたしの背後にある柱に隠れていたヴィーネの肩が、びくりと震える。

 あれ? 何でヴィーネ居るの? やっぱ放課後は用事が出来たって言って帰ったんじゃなかったの?


「お、おほほ……」


 誤魔化すような笑いを浮かべながら、ヴィーネは柱の影から出て来た。


「じ、実は用事が無くなったから来てみたんだけど、出てくるタイミングを失ってしまって……」


 何かよく分からない言い訳だな……別にいつでも混ざって来ればいいじゃん。友達と兄貴が会話しているだけなんだから。


「お前なぁ……まあいいや、それでええと、何処まで話したっけ」


 グレンはグレンで何かを察したのか、呆れた顔で溜息を吐いた。

 流石兄妹、ヴィーネの奇行の理由を見抜いたとでもいうのか。


「決闘部が無かったことにちょっと驚きでした、ってとこですね」

「ああ、そうだったな。まあそれは当然なんだよ、だって決闘すると、『手の内』がバレるからな」

「……?」

「使用デッキ、プレイング練度、カード資産……そういった情報は決闘に勝つうえで大事なことだ。情報面で不利を負わないように、カードの練習は絶対こいつとは決闘にならないと断言できるような信頼出来る相手とするか、それが叶わないなら一人で二つデッキ使って練習するのが当然だ」


 ははーん、成程ね、そうかインターネットが無いとそういう考えになるのか。


 極少数の閉じたコミュニティの中で研鑽し、然るべき『本番』のために爪を研ぎ続けるという。

 うーん、まあ気持ちは分かるけど、そんなのメタが偏るでしょ。


「あたしがしたいのは、研究と研鑽です。新しい戦略・戦術、まだ発見されていないカード同士のシナジー、デッキ構成の最適解……それらは一人で探すには限界があります」


 それなりにカードゲームの腕には自信があったけど、それはインターネットありきの話だ。

 大会でどんなデッキが優勝しただとか、あのカードはこのカードに弱いだとか、最新のメタゲームはどんな感じだとか。


 それらの情報の重要性を、あたしは嫌という程知っている。

 けど一人じゃそういう情報を集めるのは無理なので、決闘部を立ち上げたのだ。


「初心者の発想じゃない……いや、常人の発想じゃないな、世界にどれだけの種類のカードがあると思っている?」


 グレンは顎に手を当てながら、答える。


「全てのカードを研究するなんて無理だ。決闘に最も効率よく勝つ方法は、誰にもバレないように初見殺しの手段を秘匿しておくことだぞ」

「それは努力の放棄では? 全ての初見殺しに――いや、全ての戦略・戦術に対応できてこそ最強のカードゲーマーになれるってものでしょう」


 とりあえずだけど、カードリストにあったカードのプロキシは作成中だし、考え得る限りの構築を一人で試したりはしている。


「……どうしてそこまでする? 何のために、そこまで決闘に強くなろうとするんだ?」


 誰か勝ちたいやつでもいるのか? とグレンは問う。

 あたしは、首を傾げながら答えた。


「カードゲームが好きだからですよ、ただそれだけです」


 好きなもので一番になりたいっていうのは、ごく当たり前の感情だろう。


「好きだからって……」

「いや、お兄様、リリッサの『好き』を舐めちゃいけない」


 ヴィーネが首を横に振りながら、遠い目をして言葉を挟む。


「本当に舐めてはいけません……!」

「な、何があったんだ妹よ……」


 ? 何でヴィーネはあんなに遠い目をしているのだろう。


「兎に角、部員数は多ければ多い程良いし、実力者であれば尚良しってことで、グレン先輩にも部に入って欲しいんですけど、駄目ですか?」

「可愛い子の、しかも妹の友達の頼みとあれば――と言いたいところだけど、流石に決闘に関することで『はい、いいよ』と即答するわけにはいかないな」


 言って、グレンはデッキを取り出した。

 成程、そういう展開ね、とあたしは即座にデッキを取り出して応じる。


「リリッサ嬢、俺と決闘しろ。俺に勝てたら決闘部に入ってやるよ」


 自分より弱いやつと練習しても俺に利がねえからな、と。

 グレンはデッキを構える。


「俺が勝ったら……そうだな、今度の文化祭実行委員会に入ってもらうかな」

「何故文化祭実行委員会に?」

「人手が不足してるんだ、実行委員会は希望制だからね」


 そういえば、グレンは顔に似合わずパーティとか祭りとかの取り纏め役をやることが多いんだっけか。

 先日のパーティでも運営側として忙しそうにしてたし、公爵家として学生の身分の内から人を取りまとめる技術を磨いているのかな。


「それでいいですよ、じゃあ早速やりましょうか」


 場所も丁度決闘場だ。……いや、そういえばグレンがこの場所を指定したんだっけか。

 てことは初めからこうなることを見越していたのかな?


「あ、そうだ。一つ提案してもいいですか?」

「?」

「一戦だけじゃ、まぐれや偶然もあるかもしれないじゃないですか、だから何戦かやって勝敗を決めませんか?」


 あたしと練習して利があるかどうか判別するためには、手札事故やぶん回りによって一方的に決闘が終わってしまっては判断材料に不足してしまうだろう。


 それゆえの提案だ。そう、決してあたしが何戦も決闘したいわけではなく。

 ……ホントダヨ?


「成程な、いいだろう。それじゃあ何回勝負にする? 三回くらいか?」

「いやいや、これくらいやりましょう」


 五本の指を立てて、あたしは言う。


「五十先で」

「五十……先?」

「五十回先に勝った方の勝ちです」


 うわ出た、と、ヴィーネが遠い目をして呟いた。

 よーし、やるぞー!

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