197.大ドイツ連邦建国構想
大ドイツ連邦建国構想
その発表は、エウロパ各国の新聞記者が招かれたベルリン宮殿の大広間で行われた。
壇上には、神聖ローマ皇帝ヨーゼフ・ベネディクトとその母であるマリア・テレジア、そしてプロイセン国王フリードリヒ二世が居並び、壇の下の左右にはオーストリアとプロイセンの有力貴族及び大臣が居並んでいた。
「皆の者、よく来てくれた。これより、両国に取り重大な発表を行う。詳細は後程、大広間の出口にて印刷されたものを受け取って欲しい。」
壇の中央に立ったヨーゼフが朗々たる声を上げた。
「本日、オーストリアとプロイセン及びドイツ領内の貴族領と自由都市は、一つの国となる事をここに宣言する。
国の体制は、イギリス連邦を見習い、連邦国とする。
今日より一年後に国内において総選挙を行い。貴族院と庶民院の議員選挙を行う。
議員への立候補の条件は、民族・宗教・収入・身分の貴賎に捉われる事無く、誰でも立候補を行えるものとする。」
ヨーゼフの、ここまでの発言に対して大広間内ではざわめきが、どんどんと大きくなっていった。
ヨーゼフは大きくなったざわめきが収まるまで発言を控えていたが、ようやく静まり始めた所で再度話を続けた。
「総選挙が無事に終わり、この国に新たな指導者が誕生した暁には、私は皇帝位を返上し、引退させて頂く。また、私の後継の皇帝も擁立しない。
新しい国は、アメリカと同じ皇帝も王もいない国とする。」
そう発言したヨーゼフは静かに壇上の自席に戻り腰を下ろした。
新たに起きたざわめきの中、今度はフリードリヒ大王が席を立ち、壇の中央へと歩き始めた。
「我がホーエンツォレルン家は、代々、国民の繁栄の為に尽くしてきた。
しかし、時代は明らかに変わりつつある。
アメリカに誕生した合衆国には、王も貴族もおらず、民の投票で国の統治者が選ばれている。
我が家もそろそろ、国民の安寧に腐心する苦労から解放してもらいたい。
よって、我が一族の血統を引く者に国王の地位を求めることは、ここに固く禁ずる。
今日、プロイセン国及びドイツ領内の諸貴族、そしてオーストリア公国が合併を果たしたが、これからの国の舵取りは、国民の中から公正な選挙で選ばれた、それに値する優秀な人材に任せよう。
一年後、皆がこの新しい国の先導役を見事に投票で選びだすことを願って居る。
ただし、投票が公正に執り行われるまでは、両国と諸貴族の近衛兵にその監視を行わせ、完全に不正を配した選挙が実施されるように監視する。
本日の通達は以上である。」
フリードリヒの宣言が終わると、各国から集まった記者たちは会場を飛び出し、帰国を急いだ。
オーストリアとプロイセンを中心とした新たな国の発足は、この日、ブライトン商会が手配した者達により、全世界の支配者層にも届けられていた。
特にフランス・イギリスなどのエウロパ域内の大国とロシア、オスマン帝国では、首脳たちが今後の対応に頭を痛めていた。
エウロパの中央に新たに生まれる国は、経済力で他国を大きく凌いでいた。
構想された大連合国と国境を接する小国群の中では、この機に連合国に追従すべきとの意見と、それぞれの国が奉じる国王の地位を守るべきとの意見が対立した。
もはや、世界中の大砲や銃器類は全く戦争の役に立たない。
新しい兵器の開発も、ことごとく失敗している。
軍事力が国の趨勢を決める時代は過ぎ去り、経済の発展が自国の趨勢を決定づける事は誰の目にも明らかだった。
「おのれ、フリードリヒめ!一体何を企んでおるのじゃ。」
フランス帝国のルイ十五世は、真っ赤になり周囲に罵りまくっていた。
「その上、間も無くマリア・テレジア公女とヨーゼフ皇帝は家族共々、その地位を放棄するからと、マリー・アントワネットとの婚約は破棄して頂きたいだと!
ようやく、わが国にも神聖ローマ帝国の血を取り入れ、エウロパの覇権を手中にする計画が…!」
「ここは、新しい国に我が国も追随するべきでしょう。新しい国は、フランスやロシアを押しのけ、エウロパの全てを支配しようとしております。
ゆめゆめ、乗り遅れてはなりませんぞ!」
周辺の小国群の大臣達は、自分の国王を必死に説得を始めていた。
「其方は、何を言っているか分かっておるのか!
それは、我が王家もその地位を放棄せよと言っておるのと同然。この、国家の裏切り者め!」
「何を仰います。私はこの国の行く末を心から案じて提案しているのです!」
「書記長!いい加減にして下さい。」
「どうしたのですか、ネロ?」
「ようやく技術室の同志が殺傷能力の高い爆弾の製造に成功したのです。
グズグズしていないで、これらを使って王宮の制圧を行いましょう。
すべての人民が平等に豊かな暮らしを手に入れるには、王族をはじめとした貴族階級の排除に取り掛かるべきです。」
「しかしだな、ネロ。それでは多くの人々が傷つき命を落とすだろう。
そのような行動は慎まなければ…。」
「書記長が決断をされないのであれば、我々だけで計画を実行します。」
ネロの気迫に押されながらも書記長と呼ばれたヤン・ベッカーは、静かに答えた。
「ならん。そのように暴力をもって自分たちの目的を果たすことなど許可できない。」
ネロの頭の中で、これまで不当に搾取され、虐げられて来た出来事が次々と思い出された。
「あなたが、その様な弱気な態度を変えないのであれば、私はこの党を抜けさせて頂きます。」
「ネロ、冷静になってくれ。暴力は新たな暴力を生み出すだけだ。」
そこまでヤンが言った時、慌てふためいた様子で乱暴にドアがノックされた。
「誰だ?」
「私です。ステファンです。大変な事が起こりました!」
「入れ。」
ヤンが許可を出すと同時にステファンが乱暴にドアを開き駆け込んでくる。
まだ三月になったばかりだと言うのに額に汗をかいている。そして、その手には新聞が握り締められていた。きっと、通りの新聞売りのスタンドから全速力で走ってきたのだろう。
「何があったのだ、ステファン?」
「大変です。こ、これを見て下さい!」
そこには、神聖ローマ帝国の皇帝の退位と、プロイセン国王の退位、そして、民主制への移行が宣言されたことが詳しく報じられていた。
「な、何なんだ、これは?」
「これでは、私たちの考えていた革命は、意味の無い暴力に過ぎなくなる…。」
ネロが記事を読み終えると、放心したように天井を見上げた。
「ああ、これからは革命の準備ではなく、選挙の準備に力を入れなければな。」
同様に記事を読み終えたヤンが、静かに、だが、力強く言い切った。
ヤンの目には、新たな決意が燃え上がっていた。
「さあ、やっと気長な計画も大詰めを迎えるぞ。
みんな、ここまでよく頑張ってくれた。あと一息でこの世が変わるぞ。」
フランクが事務所の面々を集めて宣言した。
「この先の手筈は分かっていると思う。
フランスとロシアで民衆にこの状況をしっかりと理解させ、古い支配体制を民衆の手で改革させるぞ!」
「おお!」
事務所の面々が力強く拳を突き上げ、明るい表情で応じた。




